小説 | ナノ


▼ 025

「成宮くん!久しぶり!」
「っ……何か用?」
「あ、そんな急ぎでもないんだけど……忙しい?」
「別に?少しなら時間取れるけど?」

下駄箱でバッタリ遭遇した糸ヶ丘は、前に会った時よりももうちょっと黒くなった気がする。嬉しそうにへらへら笑っているから、「直接伝えたい」ことを言ってくれるんだろう。先に履き替えていた俺は、運動靴を脱ぐ糸ヶ丘へその話題を振ってやった。

「優勝したんだってね」
「えっ知ってたの!?」
「カルロが言っていたから」
「そっか。うん、優勝した」
「俺は準優勝だった」
「うん……お疲れ様」
「おう」

そういえば俺も直接報告はしていないな、と思って結果を口にする。準優勝。準優勝なんだよなあ。

「来年こそは絶対優勝するから!絶対観に来てよね!」
「流石はプリンス様だ」
「……ま、クイーンには勝てませんけど?」
「な、なんでその呼び方……!」

教室まで歩き始めたばかりなのに、あからさまに動揺して足を止める糸ヶ丘。挙動不審な糸ヶ丘なんて見たことない。こんな反応されたのはじめてで、ちょっと面白くなってしまう。

「七種競技の優勝者って、クイーン・オブ・アスリートっていうんだってね」
「……言っておくけど、成宮くんみたいに個人への呼び方じゃなくて、七種競技で勝ったら誰でも言われるんだから」
「でも今年一年は糸ヶ丘がクイーンってわけじゃん」
「成宮くんはずっとプリンスだね。プロになってもプリンス呼びなのかな」
「いつかキングになってやりますし!」
「あはは、楽しみにしておくね」

けらけらと笑う糸ヶ丘は、今までと違ってみえた。別に今までも笑っているところくらい見たことはあったけど、その、アレだ。心境の変化ってやつだ。
だけど前よりも仲良く喋れている気がする。俺が喧嘩売らなきゃ良い雰囲気なんて簡単に作れるんじゃないかな。

そう思ったけど、ふと思い出した雑誌の内容に、また大きな声を出してしまった。

「っていうか思い出した!あの返事なに!?」
「返事?」

思わず話題に出してしまったけど、そういえば雑誌読んだって言っていない。からかおうと思って買いまでしたのに、持ってくるの忘れちゃって今更言い出しにくくなってしまった。

「玉子焼きの好みとか、陸上雑誌に載せてどうするのさ!」
「玉子焼き……あーあの雑誌?だって野球のことは校外に広げるなって成宮くんが言っていたから」
「他にもあるじゃん!ていうか別に糸ヶ丘が知っているレベルの内容ならバレても問題ないし!」
「そうなの?じゃあ今度成宮くんのこと聞かれたらナックルボール投げれないって言うね」
「それはわざわざ言わなくていい!」

けらけらと笑う糸ヶ丘に、文句たれていると、あっという間に教室だ。なんでこいつと同じクラスじゃないんだろ。カルロ代わってくれないかな。

「じゃ、授業寝ないようにね」
「寝ないし!」

そういって糸ヶ丘はあっさり教室に入っていく。久しぶりに会ったっていうのに、随分あっさりとしていた。糸ヶ丘からしたら、俺はそこら辺の友だちと変わらないレベルなのかもしれない。いやでも学校が始まったら真っ先に話したいって書いてあったからそうじゃないはずだ。でも、そこまで考えてくれているなら先に連絡くれてもよかったのに。なんでくれなかったんだよ。

「あ、」

そこまで考えて気付いた。

俺、連絡先しらないからだ。



(糸ヶ丘ー!連絡先教えてー!)
(え、どうして?)
(ど、どうして……?どうしてだろう)

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