小説 | ナノ


▼ 024

哀しきかな高校生。いくら俺が天才ピッチャーでもこの先野球一本で食べていくにしても、勉強はしなければならない。仕方がないので読書感想文用の本を探しにカルロと図書館までやってきた。

近所の図書館はさほど大きくないのだが、随分と色々な工夫がされている。自由研究用の本がまとめられていたり、映画化原作コーナーなんてものもある。俺の目的はこの辺の本だ。映画観て感想書けばいいし。

入り口近くには、新聞や雑誌も置いてあった。スポーツ新聞も多くあるのは、まあ俺たちの活躍ゆえってところかな。なんて思いながら稲実が載っている新聞を探して歩いていると、とある雑誌が目に留まった。

「……糸ヶ丘じゃん」
「糸ヶ丘?……いねーじゃん」
「違うカルロ、これ」

並べられた雑誌の表紙に糸ヶ丘がいた。陸上雑誌らしい、雑誌の名前も初めてみる。

「カルロ!糸ヶ丘が!雑誌にいる!」
「おーすげぇ。表紙にまでなってんだ」
「『クイーン・オブ・アスリートの糸ヶ丘選手』……何それ、あだ名?」
「知らねー、読めば?」

別に興味ないけど、なんとなくその雑誌を持つ。開かずに、表紙を見た。多分高跳びをしている瞬間。

「つーかなんで糸ヶ丘が表紙なわけ?」
「そりゃインターハイ優勝したからだろ」
「インハイ優勝してたの……?」
「は?お前聞いてねーの?」
「聞いてない!喋ったのに!あいつ言えよ!」
「むしろ聞いてやれよ。甲子園来たってことは成績よかったってことだろ」
「それはそうだけど……ていうかカルロはなんで知ってんのさ!」
「教えてもらったから」

ぐっと言葉につまる。
何だよ何だよ。あれだけ大会の話もしてこっちの話もして、なのに俺には何の報告もないのかよ。別に仲いいとも思っちゃいないけど、それなりに喋る仲なんだから報告くらいするのが筋なんじゃないの。本当、信じられない。何なのさあいつ。

練習だって観に行ってやろうとしてやっていたのに。場所分かんなくて観れなかったけど。


「おい鳴」
「何さ!別に糸ヶ丘から連絡なくても気にしてないし!」
「別に個人宛で来てないぞ、クラスの連絡グループで委員長が言い出したから知っているだけ」
「っそういう問題じゃない!」

ムカつくムカつく、あームカつく。うっかり声出しちゃったら図書館の人に睨まれた。分かっているよ、ちょっと大きい声出しただけじゃん。そんな怒んなくていいのに。

どうせ映画観て書くし、テキトーでいいや。何年か前に映画化して、アイドルが出ていると後輩が騒いでいた気がする本が目についたので、それを手に取りカウンターへ向かう。カルロは夏特集とかいうコーナーに寄ってから何冊か持って後ろについてきた。


***


練習が終わって取材を受けて、いつもより遅い時間になっていた。最近は見学も多いけど、やっぱり記者が増えている。糸ヶ丘にも取材来てんのかな。全国優勝したらどんな質問が来るんだろう。あーーー何も考えたくない。

飯も終わって風呂も終わって、ようやく部屋で落ち着けた。ベッドに寝転がったものの、別に眠くもない。せっかくだから借りてきた本の映画をさっさと観て、感想文書いちゃおうかな。誰がDVD持っているんだろ。ぼーっと考えてみたのだが、一人でいるとどうしても今日見た表紙が頭をよぎってしまう。

そうこうしているとカルロが部屋にやってきた。

「おい鳴」
「なにさカルロ……うべっ」
「せっかくだから借りてきた」
「……別に興味ない」
「いいから読んどけ」

顔に投げつけられた雑誌を手に取る。糸ヶ丘だ。雑誌って借りれるんだ。そこも初耳。まあそれはどうでもいい。糸ヶ丘のことは……いや、糸ヶ丘のこともどーでもいいし。



「カルロもう読んだわけ?今部屋戻ったばっかりじゃん」
「ああ」
「そんな糸ヶ丘に興味あるわけ?好きなの?」


「好きっつったらどうするんだよ」


ベッドから飛び起きる。「恋愛としてじゃないけどな」なんて言って笑っていやがった。からかいやがって。

「そんな顔するくらいなら、もうちょっと糸ヶ丘のこと知ってやれ」
「べっ別にカルロにも恋愛脳あるんだって驚いただけだし!」
「わかったわかった……とりあえずそれは置いていくぞ」
「……っ読まないし!」



俺の顔に当たってベッドに落ちた雑誌。クイーン・オブ・アスリートの糸ヶ丘選手。クイーンってなんだよ、俺より偉そうじゃん。

陸上の雑誌なんて読んだことないけど、どうせ写真1枚どーんと載せて、ありきたりなことが書いてあるんでしょ。そう思ってぱらぱらとめくってみた。

案の定、まあ定型文のようなことが書いてあった。応援ありがとうございます。周囲の協力があってこそです。勝った喜びはまず家族に。来年に向けてより一層頑張りたい。特に面白味もない回答が並んでいるけど、そうなるのは俺だって知っている。下手に妙なこと喋ると曲解したこと書かれるんだよね、分かる分かる。

内容こそつまらないけど、はじめて見る糸ヶ丘のユニフォーム姿がめずらしくてつい見てしまった。田中が言っていたけど、本当に腹筋バッキバキじゃん。あ、こっちの写真はちょっと変な顔してる。この雑誌買って持っていってからかってやろうかな。

そうこうして読み進めていくと、記者の質問の中に見知った名前が見えた。


「……なんで俺のこと聞かれてんの」


――野球部の成宮鳴選手のことは、同級生としてどう思いますか。

それ聞いてどうするんだよ。これでまったく交流なかったらどうしていたんだ。いや、その場合は雑誌に載らないだけか。でも載っているってことは、糸ヶ丘がちゃんと答えたっていうわけで。思わず一旦閉じてから、もう一度開く。



『野球に対する姿勢は尊敬するしかありません。あれだけのストイックさを持てる人間は、なかなかいないと感じます』


――学内でも会話等はありますか。

『すれ違えば世間話をすることはありますね。彼のプライベートはあまり知らないです。強いていえば、玉子焼きは甘くない方がいいと言っていました』


「ブハッ!あいつ何言ってんの!」

思わず声を出して笑ってしまった。言うに事を欠いてそれかよ。あれだけ色々喋っていたのに、チョイスするのそこかよ。面白すぎるだろ。ひいひい言ってベッドで笑い転げながら続きを読む。


――まもなく学校も始まりますが、優勝の喜びを誰に伝えたいですか。

『部活で会えた人には直接伝えたので、メールで報告しただけのクラスメイトにはあらためて直接伝えたいですね。でもまずは何より、まだ伝えられていない方が1人いるので、その人には直接会って報告したいです』



「……これは、俺、だよな」

名前をあげないのは、まあ面倒ごとに巻き込まれないためだろう。変にはやし立てられても困るとか考えたのかな。別に俺は、迷惑とか思わないのに。

そこまで考えて気付いた。




(俺、糸ヶ丘のこと、好きかもしれない)

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