小説 | ナノ


▼ 023

「カルロ誰からメール?彼女?」
「そうそう、糸ヶ丘から」
「は!?」
「嘘だよ」
「どっちが!?」

旅館の自販機で何か買おうとしたら、そこにいたのは水飲みながらケータイを触っているカルロだった。

「メールは本当、糸ヶ丘からってのも本当。でも彼女ではないんだよなー」
「まあ、あんな女は狙わない方がいいよ」
「ふーん……鳴はもう寝るのか」
「んーまだ眠れないし廊下で涼んでから寝るー」

今日、無事に今日の試合を終えた。もちろん稲実の勝利で。次の準々決勝は二日後だ。勝ち上がるにつれて日程が詰まってくるからしんどいけど、1日空くだけマシかな。まあどうせ決勝までいくなら連戦だし。試合前日じゃないから、体調考えるよりも気分よく過ごせる方を優先したい。だから寝たい時に寝る。

「じゃあケータイ貸してやるよ」
「えっ、わっちょっと!投げんなよ!」

投げられたケータイを受け取ったら、画面に映るは糸ヶ丘の文字。通話時間が10秒くらい経っていた。


『もしもーし!神谷くん?なんで通話?ミス?』
「……もしもし」
『あ、繋がった。神谷くん?どした?』
「カルロじゃねーし」
『成宮くん?成宮くんだ!お疲れ様!』

めずらしくテンションの高い糸ヶ丘の声が、電話越しに響く。カルロと付き合っているのか聞いてみたら「なんで!?」と驚かれた。やっぱりね。そうだとは思ったけどさ。一応確認しないと。

『成宮くん今電話してて平気?』
「1分10円の通話料とるけど」
『じゃあ今度スポドリ奢るから10分喋ろうよ』
「えー仕方ないなー」
『聞いて、今兵庫県にいるの』
「は?」
『来ちゃった!今日の試合観たの!』

来ちゃった。軽く言うが、ここは関西だ。
話を聞くに、移動は高校から出るバスで来たそうだ。「応援生徒は宿ないじゃん」といえば、去年稲実陸上部だった先輩の部屋に泊まっていくらしい。

「初めて観た野球はどうだったの」
『もうすごかった!あんなスピードで進むんだね!原田先輩もホームラン打つし神谷くんも盗塁するし、あとあれ、スクイズ?っていうんだよね!すごかった!』
「それは何より。で、俺は?」
『本っっっ当に凄かった!成宮くんって凄いんだね!』

他の誰の名前をいう時より、一番力を込めてそういってくれた糸ヶ丘。口がニヤけるのを止められない。電話でよかった。絶対こんな表情見せてやらねーし。

『キャッチボールした時より全然速くてびっくりしちゃった!』
「そりゃ糸ヶ丘相手に本気出せないでしょ」
『あんな遠くても速いの分かるんだねーもっと近い席でも観たかったー!アルプスって遠いんだね!』

野球している俺を見たら糸ヶ丘も驚くだろうと自信はあったけど、まさかここまで言ってくれると思っていなかった。べた褒めじゃん。

「明後日も観に来るの?」
『もちろん!』
「もっと暑くなるから、ちゃんとドリンク飲みなよ」
『クーラーボックス持っていくから任せて!』

初めての甲子園観戦だっていうのに、地元のおっさんみたいな準備の良さに笑ってしまう。外の運動部だから夏場対策は得意なんだな。

『あ、10分経っちゃう。ごめんねこんな時に』
「別にいいよ」
『じゃ、明後日も頑張ってね』
「もちろん」
『じゃあね』

なんだか切るタイミングが分からなくて、糸ヶ丘に言われるまで微妙な挨拶を続けてしまった。切ったケータイの画面をみてみたら、ちょっと汗が付いてしまっている。ズボンで拭いて、ポケットにつっこむ。カルロどこだろ、もう部屋かな。

糸ヶ丘はいつまでいるんだろう。いるならいるって言ってくれたらよかったのに。勝手に観ないでほしいし。まったく、ほんと勝手なやつだなあ。


(おー彼女と電話していたエース様が戻ってきたぞー!)
(は、はあ?彼女じゃねーし)
(お前その顔で彼女じゃないはないだろー)
(そうだぞー)
(違うから!ていうかみんな寝なよ!)
(お前はケータイ返せ)

prev / next

[ back to top ]



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -