小説 | ナノ


▼ 022

「糸ヶ丘ー!糸ヶ丘糸ヶ丘ー!」
「糸ヶ丘は一回でいいよ」
「糸ヶ丘!」
「……なに」

一学期最後の日、壮行会が行われる。

今年の陸上部はリレーで全国に出場することになったので、大所帯で壮行会参加だ。うれしい。多分みんなも同じ気持ちだったのか、陸上部だけ随分とはやく集まってしまった。きっと校長はギリギリに来るだろうから喋って時間をつぶしていると、だんだん後ろに人だかりができ始めた。もっと大所帯の、野球部だ。

野球部は毎年派手に声援をもらうので、一番最後に並んでいる。私たちはその前。なんで2年の成宮くんが一番前にいるのかと聞けば、背番号順らしい。

「インターハイ出るんだ?」
「出るよ、野球部もおめでとう」
「まあ当然だよねー」
「原田先輩も、おめでとうございます」
「おう、そっちもな」
「知り合い?」

この間傘を借りた翌日、傘は寮母さんに渡したのだが、お礼をしに教室まで行ったことがある。それ以来、原田先輩はちょくちょく声をかけてくれるようになった。他部の先輩に知り合いは少ないので、ちょっと嬉しい。

「陸上部はいつだ?」
「8月上旬だよ!」
「甲子園も、タイミング合えば応援行きますね」
「準々決勝!準々決勝までいけば来るって!」
「鳴うるせえ」

原田先輩と喋っているはずなのに、合いの手よろしく成宮くんが割り込んでくる。目立ちたがりというか、本当に喋るのが好きなんだな。わざわざ私にまで喋りかけてくるくらいだからよっぽどだと今更気付いた。

「雅さんが女子と喋っているの、変な感じー」
「どういう意味だ」
「だって俺のファンに声かけられるとすぐキレるじゃん」
「キレねえよ。馴れ馴れしく来られると腹は立つが」
「(私大丈夫かな……)」

そんな会話をされて、途端緊張してしまう。どのレベルからが馴れ馴れしいんだろう。よく考えたら傘を借りただけで話しかけすぎかもしれない。そっと原田先輩をみると、ため息をついてこちらを見返す。

「俺のいう馴れ馴れしいやつってのは、いきなり鳴の居所を聞いてくるようなやつらだからな」
「わ、わたしも聞いてしまったことが……」
「あれはこいつがお前のノート返していなかった時だろ」
「雅さんに聞いてまで取り立てに来てたの?」
「翌日提出って言ったよね?」


「壮行会はじめるぞーみんな静かにしろー」


教頭先生の声を聞いて、ざわつきが収まってくる。そろそろお喋りも控えないと。みんなそう感じたので、自然と静かになる。が、成宮くんだけはまだ喋り続けている。

「ねえ、かっこいい宣誓してきてよ」
「私は喋りません」
「えーつまんない!」
「つまんなくないし、そろそろ静かにして」
「俺もかっこいい宣誓するからさ!」
「お前も喋んねえよ」
「なんで!?みんな俺の言葉を待っているのに!?」
「かっこいい宣誓いらないから、甲子園でかっこいい姿見せてよ」

陸上部が呼ばれた。成宮くんには「先に行くね」と声をかけて、原田先輩には頭を下げて壇上へと向かう。
成宮くんがこっちを睨んでいたので、小さくピースサインを出して逃げるように階段を昇った。


(……お前の負けだな)
(まっ負けてないし!勝つし!)
(おう、甲子園でな)

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