ただこれが幻想であるように祈るだけ






「あらあら、お客様?しかも息子と同じ年頃じゃない」
「これはこれは、お出迎えしないといけないな」
老夫婦は居間で、自分を卓袱台に居座らせて…妻は「これはお得意の御団子よ」と台に手作りと思わしき団子を乗せ、夫は「茶をしばかないといけないな」と茶の準備をしている。しかし、伏黒はとっくに夫が茶に何かを仕込んでいる事に気付いていた。
「さあ、どうぞ。冷めないうちに召し上が――」
「――そういうの、やめてください」

老夫婦は戸惑った様子で、「お団子がいけなかったのかしら…」「お茶の準備が早かったのだろうか」と言っているが、そんなのは誤魔化しに過ぎない。
「――もう、罪なき人を巻き込むのは止めて下さい。そんな事をしても、あんたらの息子は帰ってこない。あんたの大事な息子は――死んだんだ」

『その件の老夫婦、息子は裏社会のごたごたに巻き込まれて死んだよ――それから、抜け殻のようになって、息子が生きているフリをし続けていた』

「だからと言って…息子と永遠の日々を過ごしたいと言うのは、痛いほど分かるが…だからと言って、他人を巻き込むようなエゴイズムは――やめろ!」

『その盗まれた呪具は、木霊槌。狗巻君のとは違って、他人の言の葉に込められた願いや呪いを、種となって実現化させる。その願いを実現化させるには、他者の生命力が必要なんだ…後は、分かるよね』

……核心を突かれた夫婦は、これが本当の事実である分かっていても、死んだことを受け入れられなかったのかもしれない。だけど――。
「――けど、お願いだから、木は、燃やさないでくれ。お願いだ、頼む…」
そんな事は出来ない。この老夫婦は、決して許されてはならない罪を犯してしまった。気持ちは有難く受けておくの、だが―――。
「その木は、あたしたちの希望なの!だからお願い、燃やさないで、燃やさないでぇ…!」
脚もおぼつき、必死で自分を制止しようとする二人の姿を見て、心を痛んだ。これがもし、誰も死なない、幻想だったとしたら幸せそうだ。と放っておけばよかったのかもしれない。けれど、もう犠牲者が出てしまったのなら――このふざけた幻想は叩き壊すしかないのだ。
「――玉犬!」
自らが使役している玉犬が、さらさらと桜の花を散らせている樹を木っ端微塵に破壊する。
目の前に居座っていた、息子と思わしき存在が、消えて行く――老夫婦の、泣き叫ぶ声が聞こえる。
「(こんなにも、家族が大事と思えるのは――何時頃の話だったんだろうな)」
だから、さっさと起きろよ…馬鹿姉。馬鹿な弟は、他者の綺麗な幻想を叩き壊しましたよ。


「う〜ん、結果は失敗かぁ」
一連の事態を見守っている、傍観者が居た。銀髪の長髪をしているが――顔に継ぎ接ぎが施されている。それを愉快そうに見守っている声音である。
「あの老夫婦に、面白いものを見せてあげると呪具を使って、庭に種を撒いたら、楽しそうだったんだけどさ〜。まさか、邪魔者が現れるなんて予想外だったよ」
まあ、あのまま他人の生命力を吸い上げ続けていたら幻想どころの話じゃないけど。と思いながら、その傍観者は静かに、その場所から消えていた。




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