つがいの春も咲いている






件の老夫婦が住む家がある道を直行している最中、その老夫婦の家の庭と思わしき場所で、桜が咲いているのを見た。
「(――桜?)」
春は、嫌な季節だ。とても嬉しい季節だ。と様々な意見が飛び交う事もある。誰かが、四月は残酷な季節。と言っていた気もする。何となく、自分の姉がああなってしまう事を思い出して、伏黒は少し嫌気がした。
「――けど、可笑しいな」
その違和感は、すぐさま分かった。

――それは、伏黒が老夫婦の家に向かうまでの数日前に遡る。

「チエコさん、今日も桜が満開ですねえ」
通りすがりの主婦は、その老夫婦の家の居間で、世間話をしていた。近所から「事態が収まるまであの老夫婦に近付かない方が良い」と警告を受けていたが、杞憂であると思っていた主婦は、老夫婦と色々な話をしていた。世間の事、近所の事、自分自身の問題の事――中でも彼女等の興味を引いたのが、息子の事だった。
「うちの息子はね、親孝行が一番の自慢の息子なのよ」
「へえ、そうなのですか。ワタルさんも、そう思うんですか?」
「ええ、ええ。そうとも。将司は私達の宝物だよ」
夫は苦笑しながらも、夫婦に近寄った。「正弘は建設作業をしていてねえ。みんなを取り仕切る、リーダーなんだ」と自慢している夫を見て、彼女は微笑ましいと思った。

「――でしたら、お茶をどうぞ」
…お茶に、何かを垂らしているのを知らずに。それを知らないまま、彼女はお茶を飲み干した。

「ふふっ、息子想いなご夫婦ですね。うちの息子も見習えばいいのに―――うっ」
突然、倒れた主婦の女性を見据えた夫婦。夫はシャベルを持ち、妻は倒れた主婦を台車に乗せ始める。
向かった先は、桜の樹の下。スコップで穴を掘り始め――倒れた主婦をその穴に入れ、埋め始めた。

「あらまあ将司、元気になって…」
「大丈夫だよ母さん、俺は建設企業で鍛えたから何とか母さんのお世話をする事が出来るよ。父さんも母さんも、もう年だから無理をしないで」
「お前も、無理はするんじゃあないぞ。建設場所で現場工事を指揮していると聞いたから、お前に何かあったら俺は…」


「――桜、もう散ってるよな。今は5月だぞ」
確かこの地区で桜の花はもう散っている筈だ。それが何故春の季節の時期の満開状態なんだ?何だか嫌な予感がする。

――知ってるかい?桜の木の下には、死体が埋められているっていう説もあるよ?だから、春は不吉って言われる象徴なんだ。

知るか、そんなの迷信だろ。と溜息をつきながら、伏黒は件の老夫婦の家の玄関に、立っていた。




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