obbligato
「時にはな、英雄と言うものは――辛い思いをしなければいけないんだ」
あれは、幼い頃の話だったか。高飛車で御転婆だった頃のペルブランドは、クルードの話を聞いていた。彼の片目には傷があり、包帯が巻かれていた。月が見える丘で、何時も五月蝿くしているバーリッシュは居ない。彼女は、クルードの話を聞いていた。
「じゃあ、私もクルード様みたいになりたい。英雄と呼ばれるような存在になって、ネポスの皆を助けてみたいの」
「…駄目だ」
どうして?と幼いペルブランドは言う。クルードはボーンカード――ダークワイバーンを見て語る。それは、ある星を滅ぼした時の話だった。

「あれは、辛い過去だった。ネポスまで危機を及ぼすと判断した始まりの魔神の御意思で、私は他の星のエクェスと戦った。だが、彼はこう語った。
『悪魔だ、お前は悪魔だ…!英雄の名を模した、星を滅ぼす者…!人殺しめ…!』
私は、彼の言葉を真剣に受け止めた…何故、苦しまなければならないのか。星を滅ぼす行為に、何故苦しまなければならない。始まりの魔神の御意思なのに、私はそれが重く響く。御意思――違う、英雄と言うのは、辛く苦しく、道を誤ればこの星を――宇宙を滅ぼしかねない存在だ。私は、受け止める事しか出来ない。英雄だから…そうかもしれない。――だが」

「じゃあ、どうしてクルード様は…泣いているの?」
何時の間にか、彼の目には涙が流れていた。苦しんでいるの?と言っても、彼を苦しめるだけだ。クルードの話を聞いていたペルブランドは、何故か悲しい気持ちになっていた。
「時に、英雄と言うものは、呪縛かもしれないな」
「呪縛…」

「ああ、英雄と言うものは――こんなにも辛く、苦しい名だ。人を殺しただけで英雄になれるのだから」


「…………」
ペルブランドは、其処で目が覚める。英雄と言うものは、辛く苦しい名だろう。だが、自分にとっては、憧れの存在であって――。


「リーベルトよ」
リーベルトと言われた女性が、クルードの声に反応する。
「彼等は強い――本当か?」
「ええ、本当です。地球人であるドラゴンボーンの少年は、仲間と一緒に大切な地球を守る為に私を迎撃しました。腕はめきめきと上がっています。クルード様がアイアンボーンであっても、実力次第では返り討ちに――」
「…そうか」
リーベルトが言うには、地球を守る為にエクェスである彼女と戦った。だが、彼にとっては大事なのか…魔神を降臨するほどに実力が上がっているのだという。だが、彼等は実力を寄せ合わせているに過ぎない。そう思っている矢先、ドアから予想外の客が現れた。

「――ペルブランドか」

「クルード様」
ダークリヴァイアサンの適合者であり、評議会の一人である。あの御転婆であった彼女の面影は少し残っているが、大人びた彼女は冷酷な瞳で敵を映す存在になった。
「あの時の話――覚えていますか」
ああ、自分が幼い彼女に英雄と言う存在がどれほど辛いものかを説明した時の話か。すると彼女は、口を開く。
「例え、貴方が手を汚して、血塗られた思いをして、英雄の名を背負っていても――私にとっては大切な、憧れの人でありますから」
彼女は強い眼差しでそう言い、席を立つ。「この話は以上です」と切り盛りし、再び元の場所に戻る。

「……………」

『たとえ、貴方が手を汚して、血塗られた思いをして、英雄の名を背負っていても――私にとって大切な、憧れの人でありますから』

彼女の言う事も、少しは心理があるのだろうか。
*前表紙次#
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