奪って私の恋心

 どうせ、広島に長くいることは無いのなら、思いっ切り甘やかしてやったらどうだろうか。楽しい思い出をヤツにたくさんプレゼントすれば、少しは持たないか? 独りきりになったら俺と過ごしたことを思い出してもらえれば、こいつの淋しさも和らぐのではないか。
 それしか、俺にはやってやれることが見つからない。元々、俺は撫子のモンだしな。そんでこいつには鳴戸がいる。
 ばかなことをしてしまったその後始末は、ちゃんとつけねえと。筋が通らねえ。
 無理やりに思い切り笑顔を浮かべ、しゃっくり上げるヤツの身体をきつくぎゅっと抱きしめる。すると、ひくっとヤツののどが鳴ったのが分かった。
「広島を出る時まで……俺は鳴戸だ。お前の親分の鳴戸だ。とは言っても、夜だけな。夜だけ、俺は鳴戸になるからお前も甘えたきゃ甘えな。俺はもう、突っぱねたりしねえ。どこまでも、お前のことを包み込む努力をするから、お前も安心してしっかり甘えな。それが、俺の出した答えだ。いやがることはしねえ。お前だけの、鳴戸になる」
「おやぶん……おやぶん、鳴戸おやぶんっ……!!」
 すぐにでも背中に腕が回って、暫し俺たちは抱擁に明け暮れた。ヤツの身体は未だ震えていたが、そのうちに震えも無くなりその代わりに熱さが戻ってくる。
 龍宝が、細く溜息を吐いた。
「はあっ……おやぶん……俺のこと、好き、ですか……?」
「当たり前じゃねえか。なんでんな分かり切ったこと聞くんだよ」
「いえ、俺も……大好きだなあって、思ったんです。あなたのこと、好きだなって、大好きだなって」
 ぐうー! かわいい!! かわいいなあオイッ!! だめだ、また止まらなくなりそうだ。離れねえと、また大変なことになる。
 慌てて抱擁を解くが、ヤツはそのままついてきてずるっと身体がベッドの上に転がり、思わず見上げてきた龍宝と目が合う。
「あ……」
 そのまま掬い上げるようにして抱き上げ、ベッドの上に座らせて改めて抱き寄せると、今度は大きく息を吐き、先ほどと同じように背中に腕が回って抱きついてくる。
「甘えても……いいんですか? おやぶん……ホントに、いいんですか?」
「男に二言はねえ。甘えたいだけ、甘えろ。俺はそれを受け止めるつもりでいる。して欲しいことがあったら何でも言え。叶えられることしか叶えてあげられねえが、できる限りお前の甘えは受け止めてやる」
「……じゃあ、夜の間はずっと、鳴戸おやぶんでいてください。それ以上は、望みません。ただ、あなたにはおやぶんでいて欲しい。限られた時間ならばなおさら……」
 こいつも、分かってたか。俺たちにはもう、時間が無いって。元から時間は無かった。それを無理やり、作ろうとしてただけで端から殆どねえんだ。
「じゃあ、今日は一緒に寝るか。明日も明後日も、ずっと一緒だ」
 すると、ヤツが少し身体を離してきたので俺も腕を緩めてやると、龍宝は腕の中で花が綻ぶように笑った。

 それから、夜はキャバクラと牡蠣鍋屋に出入りした後、ホテルに帰ると当然のように抱き合い、そして俺はともかくとして龍宝をイかせてから、同じベッドで朝を迎えるといったルーティンができつつあった。
 ヤツの痴態は色っぽくてかわいく、抱きたい衝動を我慢するのでいつも精一杯だったが、そんな中、漸く事態が動き出し、暴利元成から名刺をもらうことに成功したその晩のことだった。
 二人きりで過ごす時間に限界が来ていることを分かった上で、俺たちはいつものようにベッドで抱き合いながらキスをして、じっと互いの顔を見つめて過ごしていると徐に龍宝が服を脱ぎ始めた。
「おい、なにしてんだ。脱ぎてえなら俺にさせろ」
 しかし、ヤツは表情を硬くしたままピチピチエロエロ服を脱ぎ捨て、床に放った。
「あなただって、分かっているでしょう? もう俺たちに時間が無いこと……だったら、もっと心に残ることをしたい。鳴戸親分でもあるけれど、そうでもないあなたと」
 どぐっと、心臓が大きな音を立てて鳴った。
 今、ヤツは何を言った? 俺と、なにをするって?
 頭が混乱してくる。なんだ、何が言いたいんだ。何か言えって!
「俺の身体は鳴戸親分のモノだから、挿れるのは無理ですけど、だからその、アレ、アレの扱き合いとか、興味ありませんか……?」
 そう言って、ちらりと俺の股間を見て眼を逸らしその視線は俺の顔に行く。
 その顔は期待に満ち満ちていて、そっとヤツの手が伸びて俺の股間に宛がわれる。そしてやわやわと揉み始めた。
 これはどう解釈したらいいんだ? 扱き合いって……いや、その前に風呂だ!
「ま、待った! 俺はちっと風呂に入ってくる。お前も入りたきゃ俺の後に入れ。その間、少し頭冷やしてろ!」
 だがしかし、ヤツの手は股間から離れずさらに強く握って揉んでくる。
「やっぱり……男の俺じゃ、いやですか? ココ、少し大きくなっているようですけど。女の方がやっぱり、いいってことでしょうか」
「いや、男女ってよりもお前が……」
「俺が? 俺が何です。俺だから、いやだとか?」
 ちっがーう! お前だからマズイんだ!! あああ、エロい子モードに入っちまってる。なんかのスイッチが入っちまったみてえだ。こうなると、こいつはとことんエロくなる。手が付けられなくなっちまうんだ。

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