特大級の愛を知れ

 ほぼ、衝動に近いようなものだ。足早にヤツに近づき、そのあごを掬い上げてキスを仕掛けると、すぐにヤツからも反応が返ってきて、何度も角度を変えてキスして唇を吸うと、背中にヤツの腕が回り、まるでしがみつくようにしてコートを握ってくる。
「ん、んっ……んんっんはっ、は、あっ……あ、ふっん……んんンッ! はっはあ、ここ、部屋の、外っ……」
「だったらさっさと扉開けろ」
 乱暴にヤツを突き飛ばし、キーを奪って扉を開け手首を引いて部屋の中にヤツを引き摺り込み、そのままの流れで壁にヤツの身体を押し付けまたしても唇を奪ってやる。
 龍宝の口のナカは相変わらず甘く、さっき食った焼き鳥や呑んだ熱燗の味は何処へ行ったのか既に甘いヨダレに満たされた口のナカは気持ちがよく、ふわふわしてぬるぬるしててそして、熱かった。
 そのままナカを探るようにして舌を伸ばし、大きく舐めるとおずおずとヤツの舌が俺の舌に絡んできて、そのまま絡め取るようにして舌を吸ってぢゅぢゅっと音を立てながら舌に乗ったヨダレを啜るとまるで砂糖水のような生温かな液体が大量に口に流れ込んでくる。
 それを、のどを鳴らして飲み下し、さらに貪るべく舌を使って蹂躙してやる。
 何かを深く考えることはしなかった。ただ、今この時がいつまでも続けばいいと願うだけでひたすらに、この状況を愉しむべく舌を動かす。
 すると、口のナカで舌が逃げるのでそれを追いかけ回すことどれくらいが経ったのか、腕の中で龍宝が震え始めてしまったため、そこで漸く我に返りそっと唇を離すと、潤みに潤んだヤツの眼と出会う。
「は、はあっ……はあ、はあ、んは、おやぶん……」
 首に腕を回して抱きついてくるヤツの身体を持ち上げ、そのままベッドへと運び押し倒す。龍宝がどう思うかだとかは一切考えず、ただただ欲望の赴くがまま耳の後ろに鼻を突っ込み、すんすんとにおいを嗅ぎながらネクタイを解きにかかる。
 だが、そこで強い抵抗に遭った。
「やっ……ちょ、止めてくださいっ! こんなことっ、もう止めにしようって言ったのはあなたでしょう!?」
「だったら、なんで俺のことを引き留めた。抱いて欲しかったんだろうが」
「ちがっ……た、ただ独り寝は淋しいから一緒に、寝てもらおうかと、そう思って……」
「一緒に寝る? お前は中坊のガキか? 大人の男が一緒に寝るっつったらセックスに決まってんだろうが。何を寝ぼけたこと言ってやがる」
 そのままネクタイを解き落とし、シャツのボタンに手をかけつつ耳の後ろや首筋を唇と舌で愛撫してやるとさらに身を捩って逃げようとしてくる。
「止めっ……止めてくださいってば!! お、親分はこんな、俺のいやがることはしなかった!! 違うっ!!」
「おお、そうだ俺は鳴戸じゃねえからな。見ての通り、斉藤だよ。お前、分かってただろ。言い訳は通用しねえぜ」
「な、鳴戸おやぶんになってくれるって……」
 その声は小さく、尻すぼみになって消えていき、その代わりにじんわりとヤツの眼に涙が盛る。
「また泣きやがるか……いい加減にしろよ。俺は甘くねえぞ」
 とは言いつつも、こいつの涙はどうにも、なんつーか悲しくなる。まるで俺が悪者じゃねえか。
 溜息を吐きながら、ヤツの後ろの髪を指先で抓んで紙縒りを作るみたいにしていじる。
「なあって……龍宝、泣くなよ。一緒に寝てやるから。ちゃんと、寝るだけにしておくから泣くな。それでいいんだろ?」
 しかし、意固地になってしまったのかヤツは首を横に振るばかりで泣き止んでもくれない。ああ、こういうところもかわいいと思えちまうんだから、俺も鳴戸のこと言えねえよな。
 そっと頭に手を乗せ、宥めるようにゆっくりと撫でてやると漸く顔を上げてくれた。その眼には涙がいっぱいに溜まっていて、するするとほっぺたを滑ってはぽたぽたと真っ白なシーツの上に雫が零れ落ちる。その様さえ、きれいに思えちまう。
 ゆっくりと顔を近づけ、ちゅ……と触れるだけのキスをすると、ほっぺたの丸みに沿って涙が流れ、ぽたっと音を立ててシーツに水滴が零れる。
「さ、寝ようぜ。ああ、風呂に入りてえか。行って来い。俺はさっき入ったからもう寝るだけだし」
「斉藤さん……俺……あの、おやぶんは、広島にしかいない俺の親分は何処に行ったんですか。そのおやぶんも、俺を置いて何処かへ行ってしまったんでしょうか」
 黙るしかねえ。広島の俺の親分はって……。
「……さあな。泣いてばっかのお前だから、そいつもどっか行ったのかもな。俺は知らねえよ」
 すると、また新たな涙がヤツの眼に盛り上がり、口元を震わせながらまたしても泣き始めてしまった。
 どれだけ泣き虫なんだこいつは。
「おやぶん、おやぶん……鳴戸おやぶん、どこ……俺を置いて、何処に……」
 そうか。俺がなにが失敗だと思ったのかが漸く分かった。俺は、第二の鳴戸を作ってしまったんだ。どうせ、広島から離れれば鳴戸はいなくなる。俺の演じる、鳴戸は消えまたこいつは取り残されてしまう。
 独りに、なってしまう。
 なんてこった、俺としたことが。こいつは重大なミスだ。また同じ思いを味わわせてしまう。そして、また泣くんだろう。鳴戸を恋しがりながら、泣く。

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