二人の足枷

 とうとう涙腺が決壊し、涙を零しながら鳴戸の舌と自身の舌を絡め合わせて唾液を啜り、しがみつきながら熱いキスに溺れる。
 鳴戸の唇は相変わらず熱く、その熱に蕩けさせられるよう、うっとりとその身を鳴戸に預け思う存分口づけを愉しむ。
 ふっと唇が離れ、至近距離に鳴戸の困ったような顔がありその顔をそっと撫でるとその手を取られ、口づけられる。
 龍宝は鳴戸の手を取り、ぎゅっと握る。別れが惜しい。とてつもなく惜しく感じる。瞳に涙を滲ませながら切なく鳴戸の名を呼ぶ。
「鳴戸おやぶん、おやぶん」
 ついに涙が零れ落ち、頬を伝ってあごに雫を作りポタポタと鳴戸の着ているスーツに落ちる。
「あのな、船の中……船を真正面から見て一番左側の通路は滅多に人が通らねえ。そこで、俺はお前を待ってる。べつに、来いって強制的に言ってるわけじゃねえけど気が向いたら、腹が痛ぇとか嘘ぶっこいて来てくれねえか。……待ってる」
「親分、おやぶんっ……! 絶対に行きます、あなたの顔を最後に見たい。最後なら、本当に最後ならなおさら、見ておきたい」
「じゃ、待ってる。その時に、俺の本当の気持ちをお前に伝えるよ」
「ホントの、気持ち……?」
「そろそろ俺も帰らなくちゃならねえ。自分のファミリーがあるからな。龍宝、船で待ってる。来いよ、伝えておきてえんだ、どうしても。でも、今じゃだめだ。今の俺じゃだめなんだ」
「はい、はいっ……! 必ず逢いに行きます」
 すると鳴戸の両手が伸び、龍宝の頬を包み込む。その手の熱さをもう感じられなくなると思うと、涙が堰を切ったように溢れ出てくる。その涙を、鳴戸は根気よく親指の腹で拭ってくれ、優しいキスを何度もくれて、その慈愛に満ちた仕草にも愛おしさを感じますます涙は溢れるばかりだ。
 そのうち、涙も枯れ至近距離で見つめ合いどちらからともなく顔を寄せ合う。そこで、二人はまた熱い口づけを交わし、名残を惜しむように抱き合い龍宝が車から降りると颯爽と、鳴戸は車で走り去ってしまった。
 本当の気持ちとは一体。謎が謎を呼ぶが、取りあえず約束ができたことが嬉しく僅かに笑みながら自分の部屋へと帰る龍宝だった。
 そして、運命の日がやってきた。
 ロケットマン・漢とは事前に打ち合わせをしておいたため、事はすんなりと済んだ。静也だけはどうにも信じていない風だったが関係ない。今を乗り切れば、鳴戸の存在さえ隠すことができたのならどこを不審に思ってもらっても構いはしない。
 そこで、機会を見計らいそっと龍宝は静也に耳打ちした。
「すみません、こんな所でなんですがさっきから腹が痛くて。少し、失礼します。生倉たちには上手く言っておいてください。さすがに恥ずかしいもんで」
「ん、おお、そうか。他人の船で漏らすのも恥ずかしいから行ってこい」
「すみません」
 これで納得したかどうかは分からないが、とにかく新鮮組の連中の眼は欺けそうだ。慌ててその場を離れ、一番左側の通路を目指す。
 だが、何しろ迷路みたいな大きな船だ。それでもと思い、必死の思いで探していると「龍宝!」と己の名を呼ぶ愛おしい声が聞こえたのでそちらを向くと、そこにはドンファンの衣装を纏った鳴戸が手招いており、歓喜に震えた龍宝は走ってそちらへ向かい鳴戸に飛びつくように抱きつく。
 そして勢いをつけて唇に吸いつき、まずは熱い口づけを交わす。
「鳴戸親分っ! 逢いたかった……」
「時間がねえ、端的に言う。……龍宝お前、待てるか」
 一瞬、なんのことか分からず黙ってしまうと、鳴戸は真剣な表情を浮かべ龍宝の頬を両手で包み、一つキスを落としてまた同じことを聞いてくる。
「お前に、俺の帰りを待つ気はあるか。いつになるかは分からねえ。だが、俺はいつか日本に戻るつもりでいる。何年先か、何十年先になるか分からねえし、この俺の願いがお前にとって残酷であっても、待っていてくれるか。俺は、お前を愛してる。やっぱり、この気持ちに嘘は吐けねえ」
「おやぶん……親分!! 待ちます、そう言ってくださるならいつまでだって、何百年先になっても俺は、待ち続けます。俺も、親分を愛してる。愛して、いるんですっ……」
「じゃあ、約束をしよう。いつか、俺は必ずお前の元へ帰る。だから、お前も期待しないで待っていてくれ。ずっとずっと、俺はお前を愛してるよ」
「俺も、親分のことをお慕いしています。心臓が止まる時まで、想い続けます。愛しています、鳴戸親分……」
 ぎゅっときつく抱き合い、互いの温度が交じり合うまで二人は口づけに明け暮れた。初めは優しいものから始まり、触れ合うだけのキスからどんどんと濃厚なものに変え、互いの咥内を貪り舌を絡め合わせて唾液を啜り合う。
 そんな口づけを、何度繰り返しただろう。龍宝も鳴戸も息が上がり、それでも抱き合い口づけ合った。
 そんな逢瀬の時間は終わりを告げ、二人は同時に身体を離しそしてもう一度、軽く唇を合わせて今度こそ距離を置いた。
「またな、龍宝……いや、国光」
 いきなりの名前呼びに、龍宝は顔を真っ赤に染めこくんと頷く。
「はい、絶対にまた、お逢いしましょう。待ってます、ずっと……ずっと。竜次さんの帰り、待っています」
 そして龍宝はそのまま、振り向くことなく鳴戸の前から姿を消した。
 ヘリコプターに乗り込み、龍宝は鳴戸の乗っている船を遠めに見ながらずっと考えていた。
 鳴戸はまたと言ったが、一体いつまた逢えるのだろうかと。
 それまで、生きていられるのだろうか。覚えているのは、先ほど交わした唇と身体の熱さだけ。
 たった、それだけ。

Fin.
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