あなたが欲しいの

 元々のところ、龍宝の気持ちは鳴戸にあるのでいつの間にかトロトロに思考が蕩ける頃、漸くキスが止まった。龍宝の両手は鳴戸の首に引っかかるように掴まっており、肩で息をして唇を真っ赤にしながらぼんやりと至近距離にある鳴戸を見つめる。
「はっ、んはっはあっ……おやぶん……はあっはっはっ」
「分かっただろ? 自分が今なにが欲しいかくらいは」
 鳴戸の唇も真っ赤に染まっており、唾液でつやつやと光っている。それを眼に入れた途端、気持ちが一気に昂り、自分から鳴戸に口づけて訳も分からず唇を押し付けていると頭を撫でられ、ハッと我に返り離れようとするが、がっしりと背に腕が回ってしまっていてそれもままならない。
「すみ、すみませんおやぶんっ! 勝手な真似して、ごめんなさい……怒って、ますか」
「いいや、かわいいなって思っただけよ。ほらな? もっと自分の気持ちに素直になってみろって。俺はなにされても怒らねえし、お前がしたいって思ってることだって、俺は大歓迎だぜ」
「俺の、したいこと……?」
「セックス、したいんだろお前は俺と」
 そのあまりに直接的な言葉に、かあっと顔に熱が集まりあっという間に瞳に涙が溜まる。
「ちがっ……!」
「違うって? んじゃあ、キスだけでお前は満足できるってのかい。違うだろ」
「だって、男とセックスって分かってるんですか親分は。俺を抱くんですよ? 俺は男なんですよ? そんな」
「お前が男だからなんだってんだ? 逆にそれを聞きたいね。俺はべつに構わねえけど。つか、正直に言うわ。抱きてえ」
 耳を疑う龍宝だ。いま鳴戸はなんと言ったのだろう。
「抱きたい……? 俺を?」
「ああ、抱きたいね。俺の手でお前のこと、めっちゃくちゃにしてやりてえって思って今も見てる。キスした時から、ずっと思ってたぜ。抱きてえってな」
「分かって言ってるんですか……それがどんな意味を持つのか、ちゃんと分かって言っていると……?」
 だんだん混乱してくる龍宝だ。頭が今の状況についていかない。動揺のあまり、上手く言葉を消化できなくなっている。
「お前こそ、キスしておいて泣いて逃げるなんざ卑怯もいいところだぜ。あんなツラして泣かれて、放っておく方がどうかしてるってくらい、お前の涙には価値がある。事実、俺の心も動いたわけだしな。さて、どうする? 俺にここまで言わせておいて、お前はそれでも要らねえって言うのか」
「……俺で、いいんですか……? 本当に、俺なんかで、親分はいいんですか」
「ばか。なんかって言うんじゃねえ。お前抱けるなんてそんなラッキー、拾わねえでどうする。それこそ男じゃないぜ。……機嫌、直ったか?」
「おやぶん……」
 龍宝からも鳴戸の背に腕を回してしがみつくと、二人は一部の隙間もなく抱き合う形になり、がっしりした熱い身体を抱いているとだんだんと妙な気分が逆戻りしてくる。
「は、はあっ……」
「ん……? どうした、苦しいか」
「ちが、嬉しくて……親分が俺を見てソノ気になってくれて、嬉しい。すごく、嬉しいんです」
「かっわいいよなあ、お前は。んじゃあ、ベッドに移動するか。抱くならちゃんとしたところで丁寧に抱いてやりてえし。男、初めてなんだろ?」
 何処か鳴戸の言葉は直接過ぎると思う。顔を真っ赤にして頷くと、頭をくしゃくしゃっと撫でられる。
「じゃ、特別優しく抱いてやらねえとな。安心しな、無茶はしねえから」
「おやぶん、キス……してください。もっと安心したいです」
 上目遣いで頬を染めておねだりをすると、鳴戸は一瞬ハトが豆鉄砲を喰らったような顔になったが、すぐに笑顔に変わりくしゃくしゃっと髪を掻き混ぜてくる。
「ほんっと、かわいいなあオマエは。いいぜ、キスくらいいくらでもしてやるよ」
 龍宝は鳴戸の首に手をかけ、引き寄せるとずいっと鳴戸が迫ってきて唇が触れ合うその直前で止まり、じっと鳴戸の眼を見る。そこには確かな欲情が見え、思わずこくっとのどが鳴ってしまう。
「おやぶっんっ……! んんっ……!」
 言葉を飲み込むように鳴戸の唇が押し当たり、角度を変えて何度も口づけてくる。その確かな熱さと柔らかさに、思わず夢中になってしまい龍宝からもキスをしかけつつ濃厚になってゆくその唇の交わりに、何だか感動してしまう。
 遠いと思っていた唇が今、自分のモノに触れている。感じたかった熱も、感触も今はすべて龍宝のものだ。今この時間すべてが自分のモノになっているかと思うとたまらない気分になる。
 周りから愛されている鳴戸が、今は自分だけのモノ。何たる贅沢か。
 さらに口づけを強請り首に引っ掛けていた手で痛くない程度に掻き毟ると、舌で口をノックされ薄っすらと開くとぬるりと鳴戸の舌が咥内に入り込んでくる。
 龍宝も舌を伸ばして鳴戸のモノと絡め、ぢゅっと吸うと大量の唾液が溢れ出てのどを鳴らして飲み下す。二人分の体液の混ざったもの。そう思うと、極上の液体だと思える。
 散々舌を絡ませ、柔く噛み合い唾液を啜り合って唇を離すと両頬と額に軽いキスが落とされ、ぎゅと身体を一度抱かれて鳴戸が離れてゆく。
「ここから出ようぜ。タオルあるか」
 龍宝は火照った顔を振りながら、こくんと頷き二人で浴室を出て清潔にしてあるタオルを鳴戸に一枚手渡し、龍宝も身体を拭いていると背にちゅっちゅっと口づけが落とされ、驚きのあまり壁に背をつけると鳴戸が笑う。
「はははっ、かっわいいなあ。こういうの、慣れてねえか」
「なっなっ、なにをするんです! 突然なにを」
 鳴戸は笑うばかりで、何も答えてはくれず龍宝からタオルを奪い床に置いて全裸のまま、浴室から出て行ってしまい、龍宝は取りあえず床に落とされたタオルを拾い上げて腰に巻き鳴戸に続く。
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