焼いて溶かして型をとる

 そのうちに息が上がってきて、自然と龍宝の手も鳴戸の着ていたシャツの中に忍ばせてしまい、熱い肌を愉しむように手のひらで大きく撫でる。
 すると、鳴戸が「はあっ……」と大きく熱い吐息をついた。
「お前に撫でられるの、久しぶりですっげえ興奮する。やっぱあれだな、女の手と男の手って違う。いいな、お前の手は。スマートで、手触りがすっげえイイ。ホント、お前はいろいろいいよなあ……」
 しみじみとそう言われ、思わず赤面してしまう。
「あの、親分も……おやぶんもとてもイイですよ? 何もかもが良くて……俺は夢中です。あなたに、夢中……」
「かわいいヤツ。かわいいかわいい、かわいいなあ」
「そのかわいいヤツを置いて行ったのは誰でしょうかね」
 その言葉に、鳴戸が苦笑いをし軽く口づけてくる。そして甘い笑みを見せ、頬に擦り寄ってくる。
「ごめんって。お前も根に持つなよ」
「根にも持ちます。あれだけ何処にも行かないと言っておきながら……また姿晦ませて。どれだけ俺が探し回ったと思っているんです」
 頬を膨らませて怒ると、その頬を突かれその代わりに触れるだけの柔らかな口づけが降ってくる。
「もう何処にも行かねえから。なっ? イイコに戻ってくれよ。んじゃないと、シてやんない」
 ぷいっと鳴戸が横を向いてしまったのでその頬へ口づけると、あっという間に笑顔に戻り、きつく抱きしめてくる。
 そうしたところで、またしても邪魔が入った。というのも、部屋の扉をノックする音と共にイゴールの龍宝を呼ぶ声が聞こえたのだ。
「龍宝様、龍宝様」
「チッ! あいつっ……!! もういい加減頭に来るぜ!! 親分、待っててくださいよ。絶対に、待っていてください」
 鳴戸の身体を押しやり、床に足を降ろした龍宝はそのままずかずかと扉へ向かい勢いよく開くと、そこには枕を抱えたイゴールが何か物言いたげに龍宝を見上げている。
「……独りで寝ろって、俺は言ったよな。……言ったよな!! なんでてめーは邪魔ばっかすんだ!! 俺は今日はおやぶんと寝るから、お前はいいから部屋行って寝てろよ!! ホント、いい加減にしろっ!! 大体、その枕はなんだよ!! ……あ、あれか、一緒に寝てってことか」
 こくんと頷くイゴール。無表情ながら、期待が篭っている顔だ。
「だめだ。今日もだめだし、明日もだめ。因みに明後日もだめだ。親分と逢えたからには、俺は親分としか寝ない。分かったら、部屋へ行け。これ以上俺を本気で怒らせるな。分かったな? 大体、俺がお前と一緒に寝たのだって金が無かったからだ! 金が無いから仕方なく同衾してただけでなにを好きこのんでお前と同衾なんかするか!!」
 イゴールは返事をしなかった。その代わりに、少しだけ悲しそうな表情を見せ枕を抱えたまま、龍宝を見上げるのみだ。
「……分かった。来いっ!!」
 ぐいっとイゴールの腕を掴み、引き摺るようにしてイゴールの部屋の扉を開けて中へと入り、ベッドに乱暴に乗せて、上から布団を掛けてやる。
「いいか、そのまま寝てろ!! そこから動くな!!」
 足音荒くそのまま部屋を出てゆくと、すぐにでも扉が開いてイゴールが枕を持って追いかけてくる。
「こ、コイツッ!! おい! いい加減にしろよ!! てめーは!!」
 その手を引き、もう一度布団に乗せるがイゴールの眼は閉じずに龍宝を見つめている。一緒に寝てもらえるかどうか、探っている様子だ。
「あのな、百歩譲って一緒に寝るとして俺は風呂にだって入ってないんだぞ! だから、俺待ってないでさっさと寝ろ。眠たいだろ? だったら寝ろ。最後通告だ」
 さっと部屋から出て足音荒く廊下を歩いて鳴戸の部屋まで行って扉を開けたところだった。イゴールが勢いよく部屋から飛び出てきてそのまま枕を持って一直線に龍宝の方へと走ってくる。
 そして、扉を開けた隙間を縫って部屋へと入り込む。
「あっ!! こ、コイツッ!! おい、出て行けよ! ここは俺と親分の部屋だ!! って、お前っ!!」
 怒鳴り散らかすと、イゴールは持って来た枕をベッドに置いてぴたっと鳴戸に張り付いている。
 その様子に激高する龍宝だ。
「てめー!! そこから離れろ!! その場所は俺の場所だ!!」
 しかしイゴールは離れず、鳴戸の背中に腕を回したまま顔だけを龍宝に向けてくる。
「おーい、龍宝。これってどういうことだ? なんか、懐かれてるぞ」
「違います、懐いているんじゃない。これは、俺と一緒に眠って欲しいというこいつなりのアピールです」
「えっ!? お前ってこいつと浮気してたのか?」
 龍宝は目を吊り上げ、イゴールを睨みつけたまま鳴戸に言葉を投げかける。
「違います!! そんな訳はないでしょう。いえ、初めはシングル二つの部屋で寝てたんですけど、そのうち金が無くなってきて仕方なく、こいつと同衾してただけでそういう仲ではありませんが……どうやら、味を占めたようですよこいつは。さ、イゴール出て行け。俺は最後通告を叩きつけたはずだ。今度出て行かないと……!」
 すると、徐にイゴールが鳴戸から離れ、龍宝の手を引いて扉へ向かおうとする。どうやら、イゴールに引く気は無いらしい。
 大きく溜息を吐くと、鳴戸が苦笑いの末、こんな提案をしてきた。
「ま、今日はあれだ、三人仲良く川の字になって寝るしかねえな。悪ぃ、龍宝、セックスはまた後日な」
「そんなっ……! イゴール!!」
「かわのじって、なんでしょう?」
 その質問には、鳴戸が答えた。
「えーとな、三人で一緒に寝るってことだ。漢字って分かるか? 漢字で川って字があって、それが家族三人並んで寝るっていう字に似てるから川の字。さ、龍宝も俺の隣来い。イゴールは龍宝の隣がいいんだよな?」
「はい。隣がいいです」
 大変いいお返事に、龍宝の苛つきは募るばかりだ。
 しかし、鳴戸がそう決めてしまった以上、セックスはどうやら今晩はお預けらしい。仕方なく、鳴戸が持ち上げてくれた掛け布団に潜り込むと、すかさずイゴールが隣に寝転んできてぎゅっと抱きついてくる。
 その代わり、龍宝は鳴戸に抱きつき目を瞑った。
 いつ、熱い夜を迎えることができるのだろう。そんな疑問を胸に、すぐにでも聞こえ出した二つの寝息のBGMを耳に、龍宝も眠りの世界へと身を投げたのだった。

Fin.
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