口が裂けたら言葉が転がる

 そして赤面しながら、ぼそぼそと言い訳を口にする。
「いえ、金が無くて安宿に泊まってたんですけどそのホテルのシャワー、壊れてて水しか出なくて浴びるのを断念してまして……ですから、少し待っていただけたら」
「だーめ。今すぐお前が欲しい。俺だって我慢してたんだぜ? そりゃ、女は抱いたけどさ、いい女を死ぬほど抱いたわけでもなく商売女適当に抱いてお前を想ってたんだから、ご褒美くらいくれよ」
「そ、それはシャワーを浴びてから! いろいろにおったらいやでしょう?」
 さらに腕を突っぱねようとするが、それは強い抱擁に掻き消され、鳴戸が熱い吐息をついた。
「やっと、手に入った……。俺だってさ、いろいろ考えたんだぜ。けど……でもやっぱお前に再会して思った。俺にはこいつだなって。やっぱり、思った」
「おやぶん……」
「いいにおい……このにおいなんだよな。抱き心地も、これだって感じがして気持ちイイ……」
「あ、あ、あの……少し、照れくさいです。風呂、シャワーを」
 たじたじと後ろへと下がると、そのまま迫ってきて慌てて腕の中から抜け出ようとするが、抱擁は力強さを増すばかりだ。
「あ、なあ。お前は誰か抱いてないだろうな。キレーな身体のまんまだな?」
「だっ抱いてません! 俺は……お、おやぶん以外、そういうことをするつもりはありませんから」
「そういうことって? こういうことか?」
 少し腕の力が抜かれ、身体が離れたと思ったらずいっと、目の前に鳴戸の顔が迫る。
「……キレーな顔。かわいいさくらんぼみたいな唇に、キスしちまおっかなー。どうしよっかなー」
「な、なにがさくらんぼですかっ! ばかにしないでくださっ……ん、んンッ! んっ!」
 言い返そうと言葉を口に乗せたところでいきなり、唇を鳴戸のソレで塞がれてしまい、久々に感じる焼けるような唇の温度を感じながら、龍宝からも首に腕を回し口づけを愉しむべく、積極的に唇を押し付けてさらなる濃厚な口づけを強請る。
 数ヵ月ぶりに感じる口づけはそれは甘く、薄っすらと口を開けるとまるで当然とばかりに鳴戸の舌が咥内へと入り込んできて、ナカを大きく舐められそして舌を突かれたので応えるべく、龍宝からも舌を伸ばして鳴戸のモノと絡め、唾液を吸うと逆に吸われてしまい、ぢゅぢゅっと音がしたと思ったら大きく鳴戸ののどが鳴ったのが分かった。
 そこで一気に身体が熱くなってしまい、夢中になって口づけに溺れていたところだった。
 突然、コンコンと扉が音を立てその向こうから聞き慣れた声が聞こえたのだ。
「龍宝様、龍宝様」
「んっ? んんっ、ちょ、おやぶん、おや、おやぶん待って。い、イゴールが呼んでます。出てやらないと……」
「ちぇーっ! 折角乗ってきたところだっつーのに! 早く用済ませてこっち来いよ」
「すみません、ちょっと行ってきます」
 扉を開けると、そこにはサイズの合わないバスローブを羽織ったイゴールが、何かもの言いたげに見上げてくる。
「なんだ! 何か用か!! もう寝ろって言っただろ!! 寝てろ!! じゃあな」
 そのまま扉を乱暴に閉め、鳴戸が腕を拡げていたので慌ててそこへ飛び込み、熱い抱擁に明け暮れる。
 相変わらず、この腕の中は熱い。燃えてしまいそうだ。心も、身体も何もかも。
「ふふっ……また、ここに戻って来れた。親分、俺は少し怒っているんですよ。ギャンブラーになるって言って、突然出て行ってしまって。俺に何も告げず、海外なんて。ひどすぎます」
 それに、鳴戸は苦笑いでさらにきつく抱きしめてくる。
「わーるかったって。いや、俺もいろいろ思ったんだよ。けど、ギャンブラーっつったっていつだってツイてるわけじゃねえし、それに……お前にはな、お前の人生があるってなんか、気づいちまったっていうか、俺が一緒に行こうっつったらお前は絶対にノーとは言わない。それが分かってて、誘うっていうのはちょっと、虫が良すぎるっつーか、違うなと思ってな。だから、俺が居なくなった世界で、お前には自分で決めた自分の人生を生きて欲しかったんだ」
「おやぶん……」
 そこで、いつもの泣き癖が始まってしまい、じんわりじんわりと瞳に涙が盛り上がり、すっと頬の丸に沿って涙が零れ、あごに雫を作ってそれがぽたりと床に落ちる。
「俺の人生は……親分、あなた無しでは考えられないものです。あなたがいてこその、俺の人生。それが、俺の考える人生です。もう、絶対離さないでいてください。ずっとずっと……俺の、傍に居て……居てください。おねがい……」
 すんっと鼻を啜ると、そっと頭に手が宛がわれさらさらと髪を撫でられる。
「そっか、お前の考える人生はそれか。よし、分かった。お前の人生ごと、お前と一緒に一生、居てやるか! なっ?」
「おやぶんっ!!」
 そうして気分も高まり、いざベッドへといったところでまた、コンコンと扉をノックする音が耳に届き、次いでまたしてもイゴールの声が聞こえる。
「龍宝様、龍宝様」
 一体何の用なのか。こちらは大盛り上がりを見せて、漸く鳴戸と晴れて再会のセックスといきたいところなのにこのノック音。
「またイゴール……! ちょっと親分、いいですか? すぐに戻りますから」
「お、おお。いいけど、傍に居てやらなくていいのか?」
 龍宝は返事をせず、鳴戸に一つだけ口づけをして扉へと向かい、勢いよく開ける。
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