尻に敷かれて覆い被さって

 そして、助手席に座りながら鳴戸の足を拳でどんどんと叩く。なんとも乱暴な抗議の仕方だ。
「鳴戸さんてば、龍宝にはすぐそれなんだから。ま、それだけ好きってことにしておいてあげるわ。あたしもいい男見つけたい!」
 そんな理江の言葉に、鳴戸が笑ってこんなことを言い出した。
「男ならイゴールがいるぜ。なあ? イゴール」
「いやよっ! なに言ってんの!? そんなミシン頭。あたしが言いたいのは、もっとちゃんとしたいい男ってことよ」
「ちゃんとした男、ねえ。ここに二人いい男がいるが、売り切れちまってるもんなあ。まあ、そのうちどっかで出逢えるだろ。それまで、我慢がまん」
 そこでふと、龍宝は違和感を覚えた。もしかして、理江が好きなのは鳴戸ではないだろうか。わざわざ海外までついてくるくらいだ。恋愛感情を覚えていたって不思議ではない。
 だが、慌てて頭を振ってその考えを追い出す。鳴戸の腕の中は、いつだって自分でいたい。例え、理江であっても許すことはできない。
 漸くこうやって再会できたのだ。長い道のりだったが、これからはいつだって一緒だと思うと心が躍る。
 そうしているうちに車はホテルへと到着し、金の入ったバッグを手に、イゴールには旅の荷物を持たせてホテルの玄関を潜る。
 しかし、なんとも立派で豪奢なホテルだ。龍宝たちが今まで泊まってきたホテルは一体、なんだったのだろうと思ってしまうほどに何もかもが煌びやかで、そして美しい。調度品一つ取ったって、日本の高級ホテルとはまるで比べ物にならない。
 周りを見渡していると鳴戸に腕を引かれて、そこで我に返ることができ笑んで隣へと並ぶ。
「ホテル側に話したらさ、全員知り合いだっつったら同じフロアに部屋取ってくれたから、理江、イゴール、そんで俺とお前は同部屋、どうだ? どうだっつっても、もう取っちまったけど」
 その言葉の端に、色事へのにおわせがあったため、龍宝は頬を真っ赤に染めながら大きく頷き、ぎゅっと一度、鳴戸の手を握ってさっと離しその温みの移った手を強く握る。
 そしてその手を見て笑むと、ぐいっと上着を引かれ下を見るとそこにはイゴールがおり、ぐいぐいと上着を引っ張り続けていて、意味の分からない龍宝は上着を引っ手繰ってイゴールの手を外し、そのまま鳴戸の後に続く。
「龍宝様」
「なんだ。さっきから用もなく呼びやがって。いいか、今晩は俺は鳴戸親分と寝るから。お前にはちゃんと一人部屋、取ってもらったからそこで寝ろ。いいな?」
 その龍宝の言葉に、イゴールは顔色を曇らせた。
「いいな? 分かったな、ちゃんと。独りで寝るんだぞ」
「……はい……」
 これは、納得のいってない返事と表情だ。だが、今晩だけは許して欲しいと思う。折角逢えたのだ。熱い夜を鳴戸と分かち合いたい。互いの熱を感じたい。
 何かもの言いたげなイゴールを連れ、ホテルのエレベーターへと乗り込み上層階へと上ると、広い廊下に出くわし、理江は勝手知ったるでドライに歩いて行ってしまう。
「じゃ、おやすみ! 鳴戸さん、加減してあげないと明日、龍宝がつらいわよ。龍宝も、ほどほどにね」
「いい女だ。なっ? ちゃんと俺たちのこと分かってるじゃないの」
 上機嫌に肩を抱かれ、龍宝は赤面しながらぼそぼそと言い返す。
「俺はちょっと……恥ずかしいですけど。その、関係を知られてるっていうのは……」
「だいぶ前からあいつは知ってるぜ。俺がぜーんぶ喋っちまったもんよ。さ、部屋行こうぜ。おっと、イゴールは、俺たちの部屋の隣な。ここ! じゃ、おやすみ! 行こうぜ龍宝」
 龍宝はイゴールに与えられた部屋の中へ手を引いてイゴールを中に入れて、縫い目のある頭をぽんぽんと叩く。
「じゃ、イゴール。お疲れ様だったな。ここが、俺たちのゴールだ。鳴戸親分に逢えたからな。今夜はゆっくり寝ろよ。おやすみ」
「はい。おやすみなさい」
 イゴールの淋しそうな顔を横目に、龍宝は扉を閉めて廊下で待っていてくれた鳴戸に続く。
 そして部屋へと入るなり、早速待っていたきつい抱擁に熱い吐息をついてしまう。
「あ、はあっ……ん、おやぶん……逢いたかった。本当に、逢いたかったです。見つけてくださってありがとうございました。嬉しいです。すごく、嬉しい……」
「お前は相変わらず、美人だなあ。変わらなくて、安心した」
 ぎゅっとさらに身体をきつく抱かれ、耳の後ろに顔を突っ込まれた時点で、慌てて鳴戸から離れようと腕を突っぱねる。
「だ、だめです。ちょっと待ってください。その……二日ほど、風呂にも入っていないので、く、くさいかと。くさい俺はいやですよね? シャワー、シャワー浴びてきてもいいですか?」
「べつに、くさくないけどな。甘いにおいが強いだけで。つか、なんでシャワーくらい浴びてねえんだ?」
 その問いかけに、つい俯いてしまう。
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