明るい光に燃やされたい

 鳴戸が、また姿を消した。
 今度は正真正銘、何処かへ行ってしまった。というのも、突然組を解散したと思ったらギャンブラーになると言い出し、飛び出して行ってしまったのだ。
 龍宝はそれは、最初は呆然として日々を過ごした。また、置いて行かれてしまった。これで何度目になるだろう、置き去りという名の離別。
 消息を絶った初日は、泣いて過ごした。一日中泣いて過ごし、そしてその三日後。追おうと心に決めて、そのための準備をして過ごし、イゴールを連れて龍宝も海外へと渡った。
 それから、一体何ヶ月が過ぎたのだろう。
 ギャンブラーになるということは、日本のような島国では無理だ。となると、当然海外へ出るということになる。
 そこで、主要な賭博場をとにかく渡り歩いて、鳴戸を探した。
 そしてラスベガスでとうとう、金が尽き三日前くらいから殆どなにも口にしておらず、イゴールも腹が淋しいようで安宿に泊まりながら鳴戸を探し続けた。
 そして、金が無いのではもはや身動きも取れないということで仕方なく、用心棒の仕事に就いて一時的でも金を作ろうと思ったその矢先に、やっと感動の再会を果たしたということだ。
 久々に出会った鳴戸は口ひげを生やしており、何だかワイルドさに拍車がかかった気がするが、それもまた、新たな魅力の引き立て役として龍宝の心をときめかせる。
 鳴戸の運転する車に揺られながらこれまでのいきさつを話していたところだった。イゴールと龍宝の腹が仲良く並んで音を立て、龍宝は赤面したがイゴールはたった一言。
「おなかが空きました」
 とだけ言って、腹を擦る始末。
 それに鳴戸は大笑いして、連れて行かれたのは洒落たレストランだった。
 今まで極寒の街の中に立っていたのだ。温かいレストランの暖房は嬉しく、なにを頼もうかメニューを見てみるがよく理解ができず、戸惑っているとイゴールがこう言った。
「私はステーキが食べたいです。あと、パスタなんかもいいです」
 メインが決まればこちらのものだ。
「鳴戸親分、俺もステーキとパスタが食べたいです。えーっと、サーロインと……海鮮パスタかなんかがいいですね」
「おーおー、腹減りさんが。なんでもいいからさっさと頼みやがれ。こっちはもうめしは済ませて酒飲みてえんだから。早く決めて注文だ」
 その言葉に、龍宝とイゴールは顔を見合わせて二人でメニューを見て、最終的にはサラダにスープ、ステーキにパスタ、そして食後には甘味も久々ということでシャンパンのパルフェといった感じに決まり、ウェイターを呼んで注文を言いつけると、すかさず鳴戸がウイスキーのロックを頼み、理江は乾杯用にとシャンパンを頼んだ。
 そして改めて席を見渡すと、イゴール以外二人とも知った顔でどこか安心すると思う。特に、鳴戸とそういう仲になってからというもの、この数ヶ月は龍宝にとってかなり厳しい旅になったが、それを救ってくれたのは少なからず、イゴールの存在もあったのかもしれない。
 何しろ、手がかかる。まるで子どものような彼はいつも何事か、特に食べ物関係ではうるさく龍宝に強請り、買ってやっていたのでその所為で持ち金が減ったという理由もある。
 だが、怒る気にはなれず、独りではないという気持ちにさせてくれる彼に、少しばかり助けられていたという面もあるのだ。
 視線をイゴールへ移すと、彼もこちらを見てきて表情は無いものの、今から食べ物が運ばれてくるということに対して楽しみにしているのか若干、微笑んでいるようにも見える。
 そんな彼の縫い目のある頭にポンと手を置き、目線を鳴戸に移した。
「親分、改めましてお久しぶりです。探しましたよ。すごく、探して……」
 言葉が続かない。
 涙が溢れてきてしまって、なにも声が出てこないのだ。
 すると、理江がまるで鳴戸を責めるように声高に物申した。
「だから龍宝には言っておこうって言ったじゃない! こうなるってこと、分かってたよね鳴戸さん」
 その言葉に、鳴戸は苦笑して誤魔化すようにお冷を口に含んだ。
「いや、それはだな。いろいろあんだよ、男には。女には分かんねえ、男の事情ってやつがな」
「なによそれ。だって龍宝泣いてるじゃない。きっと、淋しかったのよ。ねえ? ひどいよね、鳴戸さん」
 急に話を振られ驚いた龍宝だが、大きく何度も頷いて鼻をずずっと啜ると、飲み物が運ばれてきて、鳴戸が慌ててグラスを手に持ち、掲げた。
「ま、まあまあ。いいから久しぶりの再会に乾杯でもしようや。なっ? 龍宝も泣いてないで。なっ?」
「は、はいっ……! イゴールも、一緒に乾杯だ」
「はい。乾杯します」
 そして四人はそれぞれグラスを掲げ「じゃ、久々の再会を祝して、かんぱーい!」といった鳴戸の音頭と共にグラスを合わせて久しぶりのシャンパンを楽しむ。
 空きっ腹に酒は少々厳しいが、それでも美味いことには変わりない。
 そのうちに次々と料理が運ばれてきて、龍宝はイゴールと共に無言で食事に熱中した。何しろ、美味い。ここ数日、ロクなものも食べていなかった腹に温かな食事は骨の髄まで染み渡るほどに美味く、そして傍に鳴戸がいるということも相まって龍宝の気持ちを浮き出させる。
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