明日はアイになる

 だが、それが鳴戸の愛と言ってくれるのならば龍宝はただ、受け止めるだけだ。鳴戸から施されるものならばなんだって受け入れることも、それこそ受け止めてそれを返せるだけの覚悟もとっくにできている。
 何故こんな暴力的になってしまったのかは分からないが、それでも鳴戸が鳴戸ならば、龍宝はそれでいいと思っているのだ。
「おやぶんは、あったかいですね……いや、今は熱いですかね。とっても、熱いです。身体が、燃えちまいそう……」
「……オマエはよお、なんでそうなんだろうな。俺がお前になにしたか、分かってるだろ」
「例え何をされようとも俺は、親分以外の人間なら容赦なく殺しますし、嬲りもしますが親分、あなたは俺のたった一つの特別なんです。それも、ただの特別じゃなくて俺の特別は言ってみれば普通じゃないですが、俺はそれでいいと思っています」
「とくべつ……?」
「さっきも言いましたが、俺のことは親分のお好きになさってください。どんなことでも俺は文句を言ったりしません。俺の世界なんです、鳴戸親分は。だから、世界が荒れていたら俺も悲しいです。癒せることができるのなら、癒したい。そう、思っているんです。他の誰かが癒すのではなく、俺の手で元気にしてあげたい。いつもの親分に、戻してあげたい。それがいくらおこがましいことかは分かっているつもりです。でも……」
「それ以上言うな。お前の気持ちは分かったよ。……龍宝……俺はな、お前に一つだけ秘密にしていることがある。でも、それを抱えているのが少々な、つらくなってきちまった。当たっちまったんだ、俺は大事な一の子分のお前に、当たっちまった。……親分、失格だな」
 ぎゅっとさらに力を籠めて身体を抱かれた龍宝は、目尻を濡らしながら薄っすらと笑んだ。
「……ばかなことを、言わないでください。俺の親分はあなたしかいませんよ。寧ろ、あなたが親分じゃなけりゃ、俺はここにいなかった。俺の存在意義をどうか、あなたが否定しないでください。そんなことを言うヒマがあるのなら、そんな悲しいことを言ってしまうくらいなら俺が唇を塞いでしまいますよ。他でもない、俺の唇で塞ぎます」
「龍宝っ……! お前ってヤツは本当にっ、本当にばか野郎だ!!」
「心外ですね。親分ばかという言葉なら受け付けますけど」
 滅多に出ない龍宝の軽い言葉に、漸く場が和み二人の口から笑い声が漏れ出す。暫く二人、密やかにくすくすと笑い合い、同時に身体を離して顔を近づける。
 すると、下唇に鳴戸の親指の腹が当たり傷口の上に乗った。痛みに思わず顔を顰めてしまうと、眉を寄せて悲しそうな顔が目の前に現れる。
「ごめんな、痛かったろ。……悪かった」
「そんな顔は、見たくありませんよ。俺はそれよりも、親分の笑顔の方がずっとずっと大好きです」
「……大好き、か。お前には本当に……敵わねえな。こんなこと思うのはお前が初めてだぜ」
「それは光栄ですね。それより、いつまで焦らすつもりですか? 俺は早く親分とキスがしたい」
 甘えるように鳴戸の手を取り、頬に押し当てて擦り寄るとその顔は満面の笑顔になりぎゅっと身体を抱かれてしまう。
「あー……! たまんねえ。たまんねえよ、なんってイイコなんだろうな、お前は」
「ばかと言ったり、イイコと言ったり意見が分かれてますね。でも、親分のキスも好きですが腕の中も、やっぱり好きです」
「もうお前、黙ってくれよ。かわいくてたまらねえ。くっちゃくちゃにしたくなっちまう」
「おやぶんの、お好きにどうぞ」
 するとますます腕の力が強まり、息ができないほどの抱擁を受け本物の笑みが龍宝の顔に浮かび上がる。
「……キス、したいです」
「未だだ。未だ抱いていてえ。かわいすぎんだよ、龍宝お前はっ! あーチクショウ! なんでこんなんなんだろうな」
 どうやら、鳴戸の中に眠っていた凶暴な獣はなりを潜めてくれたらしい。いつもの鳴戸に戻ってくれたことがこんなに嬉しいことだとは。
 思わず瞳に涙を浮かせてしまうと、それが分かったのか腕の中から解放してくれ両手の親指の腹で目尻に滲んだ涙を拭い取ってくれる。
「……かわいいなあ、オマエ」
すんっと鼻を啜ると、両手で頬をこれ以上なく優しく包み込んでくれ、手の熱ですぐに熱くなった頬を手に擦り寄せ甘えてみせると鳴戸が柔らかな笑みを浮かべて親指の腹ですりすりと頬を擦ってくれる。
 近づく顔と顔。今度こそ、本当のキスだ。限界まで目を開いていると、鳴戸の長くは無いが量が多い睫毛が見え、それが細かく震えていて純粋にきれいだと思った。
 そっと眼を閉じるとふわりと唇に真綿の感覚がして、優しく押し当たるそれにうっとりと酔いしれる。
やはり鳴戸と交わすキスは甘くて優しい。今は鉄の味が邪魔をしているが、それもすぐに鳴戸の味に成り代わり、いつもの口づけがやって来る。
 自然と口を開いてしまうとするりと鳴戸の舌が咥内に入ってきて、舌を絡め取られてぢゅっときつく吸われる。鳴戸ののどが上下し、唾液を飲み込んだことが分かった。
 龍宝も同じように鳴戸の唾液を吸い取って飲み下し、ふわっと鼻に上がってくる鳴戸の味とにおいを愉しんでいると、舌を絡め取られ龍宝からも積極的に絡めながら舐め合い、柔く食んでは唇を吸うといったことを繰り返していると、だんだん息が上がってくる。
「んんっ、んっんっ、んふ、ふっ……ふっうんっ! はあっ、おやぶん……」
 唇が離れ、熱っぽい眼差しで鳴戸を射抜く。すると目の前にある喉仏が大きく上下し、ずいっと近づいてきて、首元に顔が埋まる。
 小さく舐めることを繰り返され、その微妙な快感に身を震わせてしまう。
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