共鳴する想い

 龍宝の欲しがる気持ちは、鳴戸でしか塞げないし埋めることはできない。恋心を抱いていれば当然なのだろうが、性欲まで押しつけたくはないというのもある。
 だが、それではだめなのだ。
 一度かなりこらえて我慢したことがあったが、毎晩毎晩まるで狂ったように鳴戸のコトの最中に浮かべる顔が夢に出てきては勃起して自慰、ということを繰り返し、いい加減本当に頭がおかしくなりそうだったので、素直に鳴戸に訴えてみたのだ。
 すると、鳴戸は優しい笑みを浮かべて頬を手で包み、言ってくれたのだ。
「我慢する必要はねえよ。欲しけりゃいつだって抱いてやる。な?」
 そう諭すように言われて以来、すっかり甘えの心が芽生えて溜まれば抱いてもらっている。
 しかし、おざなりに抱いてくれるのではなくしっかりと前戯もしてくれればピロートークにも付き合ってくれる、丁寧な抱き方のためどこか勘違いしてしまっている自分がいるのも否めない事実だ。
 本当は鳴戸も自分のことを、そう勘違いしてしまうようなことも時々ある。幻想だと分かっていても、それほどまでに鳴戸はとても大切に身体を扱ってくれるし、抱いてもくれる。キスだってもらえる。
 フレンチ・キスなどではなく、濃厚なものも施してくれるのだ。軽いキスもあることはあるが、鳴戸は深いキスが好きらしくよく貪られている。
 そこも、好きなところの一つだ。
 好きなところを上げればキリがないが、キスはその中でもかなり上位にいて、キスを交わすたびに深みにはまっていくような感覚さえする。というより、はまっていっているのだろう。
 入って行ってはいけない何かに足を突っ込んでいるような気分がするが、もはや手遅れだとも思う。いつか時が来れば忘れてゆくのかもしれないが、今のところ全くそんな気配はなくどころかますます鳴戸に夢中になっている自分が恐ろしかった。引き返せないところまで来ている自分に、鳴戸はいつまで付き合ってくれるのだろう。
 そのことを考え出すと、気が狂いそうになる。
 決まった女が鳴戸にできたら、一体どうなってしまうのだろう。龍宝に鳴戸を縛る権利はどこにも無いが、できればいつまでもここに留まっていて欲しい。おこがましい願いだとは分かっていても、そう思わずにはいられない。
 恋とは、そういったものなのかもしれない。
 わがままで、図々しくてそしてとてつもなく幸せで苦しいもの、それが、恋。
 龍宝は苦虫を噛み潰したような顔で組事務所へ着き、車を降りた。すると、午後の日差しが目に入ってきて、そろそろ初夏の風が気持ちイイ季節になってきた、そんなうららかな陽気の中を歩き、事務所の玄関扉を開ける。
 龍宝が顔を出すと早速、挨拶の応酬が始まる。おざなりにそれに返事をして、鳴戸の居所を聞いてみることにする。
「親分は? もう来てるか」
「ああ、親分なら二階の広間で昼寝でもしてるんじゃないですか? 昨日も飲み歩いてたみたいですし」
 飲み歩いていたということは、女を抱いた可能性がある。
 のどが渇くような、じりじりとした痛みが胸を焦がす。妬くのは趣味ではなかったはずなのだが、どうにも鳴戸のこととなると調子が崩れる。
 抱きたいのであれば、夜でもなんでも自分を呼んで欲しい。そういった願いが胸に込み上げる。
 靴を脱ぎ、二階へ通づる階段を上り襖を開けるとそこには鳴戸が昼間酒をかっ食らいながら横になっており、龍宝の姿を見つけるなりいつもの優しい笑みを浮かべてくれた。
「おはようございます、親分」
「おー、今日は遅いな龍宝」
「寝過ごしてしまいまして」
 会話はそれで無くなり、いやな間が二人を包む。龍宝は部屋の隅に正座で腰掛け、長い睫毛を伏せていつ言い出そうか迷っていると鳴戸から切り出してくれた。
「随分居心地悪そうじゃねえか。何か言いてえんだろ? ああ、あれか。……溜まったか」
 龍宝はその言葉に対し頬を赤く染めて大きく頷く。こう言い出してくれるということは、鳴戸にソノ気があるということだ。
「……今朝方、鳴戸親分の夢を見ました」
「ま、それじゃ仕方ねえ。って言い方は良くねえな。よし、飲み屋ハシゴしたら行くか」
 鳴戸はどこへと言わなかった。その言い方や言葉の端ににおわせがあったので、受け入れてくれた喜びに、膝をついて鳴戸の傍へと行き顔を近づける。鳴戸は眼を開けており、思わず赤面してしまう。
「眼、閉じてくださいよ……」
「んん、こうか?」
 眼を閉じるどころか、鳴戸は勢いよく龍宝の両頬を手で包み込み、愛おしそうに親指の腹で頬を撫で擦ってくる。
 その心地よさに思わず瞼を下してしまうとふわりと、唇に柔らかく優しい感触が拡がる。大好きなキスの時間だ。口を半開きにすると、するっと鳴戸の舌が入り込んできて大きくナカを舐められる。龍宝も応えるよう、鳴戸の口を舐めると応酬になり舌の舐め合いを散々して、ちゅ……と音を立てながら唇が離れてゆく。
「はっ……はあ、おやぶん……」
「ほっぺ真っ赤にしちまって、もうトロトロじゃねえか。ここは事務所だってこと、忘れんなって」
「だって、おやぶんがあんまりにも優しいから」
「俺の所為か! はっはっは、まあ、そうかもな。俺の所為かも。んじゃ、責任取ってもう一回な」
 今度はしっかりと組み敷かれ、覆いかぶさるように鳴戸の身体と龍宝の身体が重なり合い、そして唇が降ってくる。限界まで薄目を開けて見てみると、鳴戸の長くは無いが量が多い睫毛が震えていて、なんとなくその扇情的な姿を眼に入れ、瞼を下した。
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