鼓膜の奥まで捻じ込む愛に

 そして、はだけた部分に鳴戸が唇を置いてきて、その微量な快感にぴくっと身体が勝手に反応してしまう。
「う、んっ……ン、あ……や、止め、止めてください。もう、ホントに……」
「やっと抵抗が薄くなってきやがったな。気持ちイイんだろ? 俺にこうされてさ……お前は気持ちイイって思ってるはずだ」
 さらにボタンが外され、背広も身体から離れカッターシャツもアンダーシャツも脱がされる。すると、上半身にはなにも纏っていないことになり、鳴戸は龍宝の裸をじっと見つめてくる。
「……あの、やっぱり止しましょう。俺、風呂に入ってきます。こんなごつい男の裸なんて、見ても面白くないでしょう? だから、これ以上二人とも傷つかないためにも、俺は身を引きます。親分、女でなくて、ごめんなさい……」
 顔を伏せ、今度こそ離れようと上半身を起こそうとすると突然だった。鳴戸が素早い身のこなしで龍宝をベッドに敷いてしまったのだ。そしてそのまま覆いかぶさり、うなじに顔を突っ込んでくる。
 必死で身を捩る龍宝だ。
「やっ……! 止めてください!! は、離れてっ、俺に触らないでください!! 親分が、汚れるっ……!」
 ぴたりと鳴戸は動きを止めてくれたが、ずいっと至近距離で顔を覗き込まれ、思わず伏せていた目を開けて正面に位置する鳴戸を見ると、何とも複雑そうな表情を浮かべていた。
「なあ、お前は自分のこと汚れてるって言うけど、どこがだ? なにが汚れてんだ。俺には分かんねえよ、お前の言ってることが。どう汚れてんだ」
「どうって……こ、心も、身体も……親分と、釣り合いなんて取れないくらい、汚れてると」
「ばかじゃねえのかお前は。いい加減にしろって。なんでそう自分を卑下したがるんだよ。テメーはマゾか? お前はすっげえかわいいよ。どっこも汚れてなんてねえ。汚れてるとしたら……俺が汚しちまったくらいか。キレーだよ、龍宝お前はキレーだ。どこもかしこも、甘くっていいにおいがして、かわいくて、すっげえキレーで。……愛おしいって、抱くたび思ってた」
 その言葉に、顔を真っ赤に染め上げる龍宝だ。
「あ、あの、あの俺、ホットウイスキー作ってきます。寒いでしょう? だから、離してください」
「逃げんな。いま逃げたら、ホントに俺らはだめになるぞ。それでもいいなら、腕の中から出てけ」
「おや、ぶん……」
「俺は本気だぞ。本気で、お前のこと想ってる。その本気を踏みにじる覚悟が、お前にあるか?」
 反射だった。龍宝は何度も首を横に振り、涙を零す。
「おれで、いいんですか……? 親分は、男の俺を選んでくれると……? 信じられない。だめです、無理です」
「だめか、無理かなんてお前が決めるな。だったら聞くけどよ、お前は女として俺に扱われて、ケツにチンポ挿れられて中出しとかされてんのに、いやじゃねえの。男の俺だぞ?」
「それはだって、親分は男ですし……当たり前かと」
 すると、さらさらと髪を撫でられた後、ぽんぽんと優しく頭に手が乗る。
「俺もおんなじ。べつに、いいじゃねえ? 男同士でも。当人同士で問題なけりゃ、なんにも気にする必要なんてねえと思うんだけどな。違うか」
 そう言って、肩口に手が乗りその手は脇腹を性的な意味合いを含めた触れ方で撫で擦ってきて、思わず身を捩ってしまう。
「ん、あっ……おや、おやぶんっ……」
「キスしてえんだけど、いいかな。お前とキスしてえ。思いっ切り、濃厚なやつ。トロットロにしてやりてえな。そしたら、抵抗も無くなるだろ」
 しかし、それには黙ってしまう龍宝だ。瞳を揺らし、鳴戸を見ると徐々に顔が近づいてくる。逃げようと顔を背けようとするが、何故か目が反らせないのだ。深い海のような、凪いだ鳴戸の瞳に吸い込まれそうになり、思わずじっと見入ってしまうといつの間にか、ゼロの距離に鳴戸の顔があり唇には真綿の感触が拡がる。次いで、温かくて湿っているものが強く押し当たりそこでキスされたのだと分かると、勝手に瞼が落ちる。
 柔らかなキスは角度を変えて何度も交わされ、鳴戸の熱い唇が触れるたび気持ちが解きほぐされてゆくような、そんな気分が湧き上がる中、だんだんと口づけは濃厚になり舌と舌とを絡め合いながら舐め合い、互いの気持ちをなぞり合うような、そんな触れ合いが長い間続きまるで合図したように二人は唇を離した。
 口のナカはすっかりと鳴戸味に変わっていて、それがまた妙な旨味があって幸せな気分になれる。
「はっ……おやぶん……」
 甘い口づけはすっかりと龍宝の心を蕩かして、紅潮した頬は鳴戸の両手によって包み込まれ、額に一つ口づけが落とされる。
「……こういう時、すんげえ思うことがある」
「おやぶん……?」
「愛おしいなあって、心底思うんだよ。この気持ちはきっと一生、お前には伝わらねえんだろうな。一緒の気持ちだったら嬉しいって思うけどよ、他人の気持ちなんて誰にも分からねえもんな。伝わるといいのにな」
 龍宝はその言葉に緩く首を横に振り、頬を包んでいる手に擦り寄る。
「伝わっていますよ、充分に、心に届いてます。俺も……あなたとキスすると思うんです。愛しいなって、親分が好きだなあって、思っているんですよ。でも、すぐに怖くなる。好きになればなるほど、きらわれたくなくて……すごく、怖くなるんです」
 すると、頬を包んでいる親指の腹で頬をすりすりと撫でられ、またもう一つ額にキスが置かれる。
「ばかだなあ、お前は。……俺がこんなにお前のこと好きだって見せられたらいいのにな。眼で見たら、お前はきっと仰天するぜ。俺がお前のことをどれだけ好きか、見てもらいてえなあ……そしたら、きっともっとお前を幸せにすることができるのに。安心させてやることも、できるのにな。ままならねえよ」
 そう言って、鳴戸は自嘲気味に笑った。
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