君の心臓を愛撫しよう

 何とか腕を降ろそうと頑張るが、つい皮膚に爪を立ててしまい意思はますます龍宝を裏切り続ける。
「離してっ……!」
「なぁにを考えているかと思えば……そんなことかよ。つっまんねえの」
 その鳴戸の呆れたような声色と内容に、思わず頭に血が上ってしまう。つまらないとは何事か。
「なんですっ、人の想いをつまらないってっ……!! いくらなんでもひどすぎる!! いいから、離してくださいっ!! 抱かれたくない!!」
 腕の中で暴れ、思い切りベッドに鳴戸の身体を押しやると、いきなり手首を掴まれ龍宝までもがベッドに乗り込む羽目になり、目の前には優しい笑みを浮かべた鳴戸が眼を潤ませて龍宝を見ている。
「おやぶん……おやぶんっ……!!」
 その笑みの優しさに、押さえ込んでいたものが一気に噴き出し、形振り構わず抱きつき、大声を上げて泣いてしまう。
 男の泣き声など聞かせたくなかったが、どうしても今は止まりそうにない。
 すると、鳴戸の手が背に当てられ宥めるようにゆっくりと上下に動き、その慈愛に満ちた動きにも涙してしまう。
「よーし、よしよし。泣きたいだけ泣け。止めねえから。泣き止むまで、待っててやるからよ。お前、我慢してたんだなあ……ばかなのは、それに気づかなかった俺か……」
「おやぶんは、ばかじゃないぃ……!」
「そんなになって、未だ庇うのか、俺を。んなこと、する必要ねえんだぜ。これでも反省してんだ」
「おや、ぶん……?」
 涙でぐしょ濡れの顔を見られたくはなかったが、つい顔を上げてしまうと両手で頬を包まれ、顔が近づいてきたと思ったらそっと、眼に唇が当たり涙が吸い取られてゆく。
 両眼とも唇を押し当てられ、すんっと鼻を啜って息を吐くと、今度は優しくキスされ唇に拡がる温かで柔らかな羽毛を押し当てられているような感覚に、思わず瞬きするとその拍子に涙が零れ、鳴戸の手に流れる。
「龍宝……ごめんな、俺……なんも気づいてなかった。いや、気づいてやれなかったの間違いか。お前がんなこと想って俺の傍に居るなんて……思わなかった。だって、いつも笑ってっからさ、お前」
「それは……だって、嬉しかったから。親分が傍に居て、いつも嬉しかったんです。それに、嘘はありません……」
「だろうな。だから、俺はこれでいいんだと思ってた。けど、お前とさ、こういう仲になってみてなんか変だなと、いつ頃からか思い始めてはいたんだよな。なんか、変っていうとあれだけどお前いつも笑ってるけど苦しそうにしてるなって。それが何か分からなくて、けど俺は糺しもせずに見ないふりしてお前と居た。お前が笑ってるっていうのをいいことに、俺は無かったことにしちまってたんだ。だから、本当に謝らなくちゃならないのは俺の方なんだよ。だから、ごめんな龍宝。そんで、許してもらえないのを覚悟で言う。……俺も、お前と別れたくない。まだまだ、やりたいことがたくさんある。楽しいところに行ったり、一緒に美味いもん食べたり……何気ねえことでいいから、お前と一緒にやりたいことが未だある」
「おやぶん……」
「……うん。それに、言っとくがな、これだけは言っておく。俺は、べつにお前を女として見てるわけじゃねえよ。男ならひげが生えてるし、すね毛もありゃ腋毛もあるさ。だが、それがどうした。俺はな、男とか女でお前を見分けてるわけじゃねえんだ。龍宝国光という一人の愛する人間として、お前を見てる。だから、お前を形作ってる何もかもが、俺には愛おしいんだ。腋毛がどうした。すね毛が何だって? んなもんどうでもいいよ。それがお前なら、なんだって受け入れるさ。俺はな、お前の外見にももちろん惹かれたけどよ、お前すっげえキレーだからな。けど、中身が大好きなんだ。すんげえ愛おしい。だから、つまんねえことに拘ってねえで身一つで俺のところに飛び込んできてくれねえか。俺はそれを、受け止める自信がある。根拠はねえが、それだけお前を愛してるってことだ。分かるか、俺の言ってること」
「おやぶんは……本当に分かってるんですか。俺が男だってこと……ちゃんと明るいところで見てないから誤魔化されてるだけで、俺ごついんですよ? 体毛だって結構その……生えてるし、夢を見てませんか? 俺がいつも、親分の前できれいにしているから、親分は勘違いしてて……」
「じゃ、今から電気つけて服脱がせる。それで俺のが勃てば、問題ねえだろ?」
 その言葉に仰天する龍宝だ。
 いま鳴戸はなんと言っただろう。明るいところで全裸など晒せば、間違いなく鳴戸は幻滅して去って行ってしまうだろう。何故にそんな自殺行為をさせなければならないのか。
 慌てて首を横に振る龍宝だ。
 そして鳴戸から離れようと身を捩るが、逆に迫られネクタイに手がかかる。
「やっ……いやっ、いやです、止めてください! やめっ……親分ッ!! 失望されたくない、いやだっ!! はなっ、離してっ、離してくださいっ!!」
「まずはその思い込みを、引っ剥がさねえとな。諦めて、何もかも俺のモノになりな、龍宝国光」
「……っ! は、反則ですそんな、名前フルネーム呼びとか……」
「好きなんだって、俺はお前が。だから、全部俺のモンにする。愛してるモンを自分のモンにしたいって、不思議じゃねえだろ? 男だって女だって、それは変わらねえはずだ。お前も例外なくな」
「俺は、だって……」
 するりとネクタイが解かれ、ベッドの上に置かれると今度はカッターシャツに手がかかりあっという間にボタンを三つほど外されてしまう。
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