望みの彼方

 それから、二ヶ月の時が流れた。
 龍宝にとって、精彩を欠いた日々の中をまるで泳ぐように過ごしていた。鳴戸と関係を持つ以前の生活に戻っただけなのだが、ここまで味気ないものだっただろうか。生活自体がすでにもう、色を無くしているのだ。
 組事務所では普通の顔をして過ごしているが、自宅に帰るなりひたすらに筋トレをして時間を紛らわすようにして過ごし、わざと夢中なフリをして本を読んでみたり。
 だが、なにも面白くない。楽しくないのだ。
 季節は既に夏に突入しており、スーツを着るには些か、厳しい季節に突入し今日も今日とて、汗をかきつつ事務所の二階へと通ずる階段を上っている最中だ。
 最近の鳴戸の博打癖が少々行き過ぎており、他組員から龍宝に少しは手加減をして遊んでもらうように言ってくれと頼まれたのだ。
 仕方なく、二階広間へと向かうとそこに鳴戸はいたが昼間酒をかっ食らい、暑かったのか上着のスーツを脱いで、ぐっすり眠っている様子。
 背を向けられているため、あくまで様子でしかないが心地よいリズムの寝息が聞こえてくるのだ。
 思わず傍に寄ってしまい、背を向けている鳴戸の傍に正座してじっとその広い背中を見つめる。思わず手が出てしまい、括ってある鳴戸の髪に手を伸ばして梳くと案外、触り心地が良く指の股が気持ちイイ。
 そのままさらさらと梳いていると、抱いてはいけない気持ちがせり上がってくるのを感じた。
 やはり、好きだと思う。
 諦めたつもりだったのだが、どうやら未だ恋心は健在らしい。未練がましい自分に吐き気を覚えながらも、髪を梳き続けたところだった。
 苦しい思いを抱きながらいい加減、髪を梳く手を止めないとそう思ったその瞬間だった。鳴戸が素早い身のこなしを見せ、あっという間に身体を反転させ龍宝の手首を捉えたと思ったら、何か思う間もなく畳に押し倒されてしまっていて、驚く間もなくゼロの距離に鳴戸の顔がある。
 そう認識した途端、唇に柔らかで湿った感触が拡がったと同時ほどにさらにぎゅうっと柔らかなものが強く押し当たり、思わず口を開けてしまうとするっと咥内に舌が入れ込まれてしまい、ぬるぬると鳴戸の舌が龍宝の舌の上を這う。
「んん、んんうっ……は、んむっ……!」
 思わず息を乱してしまうと、その吐息ごと飲み込むように深く口づけられ、抵抗する間もなく咥内を散々貪られる。
 舌は舐めたくられてぢゅっぢゅっと何度もきつく吸われて唾液を啜られ、上顎は特に丁寧に。舌の下もしっかりと嬲られ、歯列をなぞられる。ぎゅっと鳴戸の上腕部のカッターシャツをつい握ってしまい、咥内に感じる鳴戸を想う。
「んむっ……ふ、ふ、ふっ……はっん」
 啼いてしまうと、のど奥で鳴戸がかすかに笑ったのが分かった。そのうちに酸欠にでもなったのか、激しいキスの所為で頭の中がぼーっと霞んでくる。
 ふっと唇が離れ、鳴戸の濡れた唇を眺めているとその顔は苦笑いに変わった。
「お、やぶん……どうして」
「離れられると、思ったんだけどなあ。思っただけじゃ、だめなんだな」
「なんの、話を」
「どうにもいけねえや。昼間のお前見るだけでもたまらなくなってくる。女抱いても愉しくねえ。こりゃ、病気だな。ははは」
 その鳴戸の笑いにかなりの無理が見えた龍宝は、直感的に感じた。身を引いた方がいいと、思ってしまったのだ。
 思い切って鳴戸の肩を押し、距離を取ってそのまま下がろうとするが鳴戸は許してはくれなかった。どころか、またしても組み敷かれてしまい口づけが降ってきて強く抱きしめてくる。
 ぴったりと唇を塞がれてしまい、ナカに舌が入り込んでくる。そしてまたしても咥内を愛され、唇が離れてゆくその瞬間を狙い、離れようとする龍宝だが鳴戸はどこまでも追ってきてキスすることで逃げ道を塞ぐように執拗に口づけてくる。
 それを何度繰り返しただろうか。少なくとも、二桁ほど龍宝は逃げたが鳴戸はそのたびに追って来て、キスをして離し逃げると追ってきてまたキス。
 ここまで来るともはや逃げるという気力どころか、キスによる快感で頭がぼーっと霞んでくる。そのうちにだんだんと逃げるどころか、鳴戸の情熱に絆されたかのように龍宝もキスに応え始める。
 酒の味のする舌を甘く噛み、舐めて咥内に舌を入れこむと絡め取られ先ほどよりもさらに濃厚なキスの応酬が始まる。
 まるで縺れ合うように抱き合い、激しいキスを何度も繰り返し、唇が離れればすぐにどちらかが追うように口づけ、息が乱れて整わなくなる頃に漸く、長く濃厚なキスは終わりを告げ龍宝は鳴戸の背に腕を回し、しがみつきながら呼吸を整える。
「はっはっ……んっ、はあっ……は、は、おやぶん……」
「今晩、空けておけよ。ホテル、下にいるヤツに取らせるからよ。バーにも寄らず、ホテルへ直行だ」
「いいんですか、女……」
「お前しか目に入らねえって言ったら、どうする?」
 その言葉に、龍宝は顔を真っ赤に染めた。
「こ、今晩、空けておきます……」
 そう言ってぎゅうっと目の前の身体を抱きしめると、しっかと抱きしめ返され隙間なく抱き合う。
 まさかまたこの腕の中に逆戻りすることがあるとは。驚いているが、今はただ感激の方が遥かに勝る。
「おやぶん……」
 まるで淡く吐息をつくように、名を呼んで腕の中の心地よさを堪能する龍宝だった。
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