一生一緒にいられる方法

 まるでそれが気付け薬でもあるかのように一気に、心を支配していた獰猛な感情が消え首を捉えたまま、鳴戸の口の端に滲んだ唾液を舐め取りそのまま口づける。
 そしてそっと、手を離すと肺に空気がたくさん流れ込んできた所為だろう、鳴戸が激しく咳き込み、背を丸めて苦しそうにしている姿を見たくなかった龍宝は背に抱きつき涙を零す。
「ごめんなさい! ごめんなさい、親分!! こんなこと、するつもりじゃなかった!! 違うんです、違うっ、おれは、こんなこと望んでないっ……!! いやだっ……!!」
「りゅ、りゅうほうっ……げほっ、がはっ!! はあ、はっ……俺は、気にして、ねえよっ、げはっ!!」
「……ごめんなさい、あの、帰り、帰りますっ……」
 どうして謝っていいかも分からず、逃げようとする龍宝を咎めるように立ち上がったその手首を強く握ってきた鳴戸によって思い切り下に引かれ、バランスを崩してしまう。倒れるっ……と目を瞑った途端、ふわっと身体が横向きに抱え込まれ、思わず鳴戸を見るとそこには首に手の形の痣を作りながらも優しく笑んで龍宝を見ている。
「逃げるな。ここで逃げたら男じゃねえぞ」
「だって……俺、あなたを、あなたの首をっ……し、絞めたんですよ……? 好きなのに!!」
「まあ、愛情と破壊衝動って似てるもんだからなあ。実際そうらしいぜ? だから、俺は気にしねえの。それだけお前が俺のこと好きってことだろ? だから、これはお前の愛情って受け取っておく。それでいいだろ?」
「ゆるして、くれるんですか……? あなたにそんな無体を強いた俺を。……許さないでください!! いけません、許しては!! いっそのこと、殴りつけられた方がまだ良かった……ひどいことをした、俺を叱ってくれた方がまだ救われたのに……」
「叱らねえし、殴らねえよ。だって、怒ってねえもん、俺。だから言ったろ? 愛情表現だって。お前がいくら俺の首絞めようが、まったく構わねえ。ある意味、愛のある行動だからな。……それに、なんだろうな、未だ早いんだろうけど信じられねえんだろうな、お前は俺を。ま、それはおいおい分からせていくとして……ほら、抱きしめてやる。ぎゅってしてやる。ちょっと落ち着きな。俺の腕の中で、深呼吸してお前はちっと落ち着け」
 ふわっとそのまま抱き込まれてしまい、力を籠めて身体を抱かれるとあれだけ荒ぶっていた心が凪いでゆくような、そんな感覚が芽生え、それはあっという間に龍宝の心全体に拡がり思わず大きく息を吐いてしまうと、ふわりと鳴戸の持つかおりが鼻を掠り龍宝からも鳴戸の背に腕を回して抱きつく。
 すると、やってきたのは絶大な安心感だった。
 この腕の中にいれば、なんだって大丈夫なんだと根拠もなく思える。
「ふっ……う、うう、おやぶんっ……ごめんなさい、ごめんなさい親分。首絞めて、本当にごめんなさい……」
「だから言ってるだろ。怒ってねえって。それより、泣き止みな。優しくキスしてやろうってのに。ほら、眼ぇ瞑んな」
「ん……」
 そっと眼を閉じると、すぐに唇に真綿の感触が拡がり、次いで湿って温かなものが押し当たっているその贅沢とも呼べる快感に浸り切る。
 そのまま口づけていると、徐に鳴戸の手が動き、首に緩く引っかかっていたネクタイが解かれ、そしてカッターシャツのボタンが半分以上外されてしまい、そこに熱くて武骨な手が這い始める。
「あ、はっ……や、おやぶんっ……は、はあっ、んっ……」
 ずいと近づいてきた鳴戸によって鎖骨に口づけられ、その熱い唇は喉仏にもキスを落とし、意識せずに勝手に身体がピクッと動いてしまう。
 ずりっと肌に手が滑り、シャツの中に顔を突っ込まれる。
 そのまま体重をかけられ、ころんっとコンクリートの上に転がされ、またしても降ってくる口づけを受け止める。
 気持ちがイイ。今はただ、それしか感じない。
 思わず腕を上げて鳴戸の首へと引っ掛け、さらなるキスを強請ると今度は一転して激しいものを強いてきて、咥内に入ってきた鳴戸の舌は龍宝のすべてを掻っ攫うように舌を激しく動かしてきて、少々痛いほどに舌を食まれ、ぢゅっと音を立てて唾液が持っていかれ鳴戸ののどが大きく動く。
 そのままさらに貪られ、歯列や舌の下までしゃぶられ、強引に舌と舌を絡ませられる。
 思わず息を上げてしまう龍宝だ。
「ん、んっ! んん、んうっ、ふっ……は、はあっ、は、は、んっ」
 啼いてしまうとそれを合図のようにして唇が離れてゆき、辺りが急に静まり返りその静寂の中、二人は硬く抱き合い互いの体温を擦りつけるようにして身体を重ねる。
 そこで漸く、花火大会が終わったことを知り、そっと上半身を起こした鳴戸に腕を引かれそこでも抱擁が待っており、けれどがっしりと抱き合うのではなく互いの顔が見える位置で身体に腕を回され、目の前の鳴戸の顔がこれ以上なく優しく笑む。
「……愛してるぜ、龍宝。もう、離さねえぞ。ぜってえ、離さねえ」
「俺も、あなたを愛していますよ親分。俺も、ずっと親分の傍に居たい。一番傍にいて、ずっと温かさを感じていたい、そう思ってます」
 龍宝も笑みを浮かべて鳴戸を見ると、また自然と顔が寄っていってしまい今まで経験のないほどに優しく柔らかな口づけが降ってくる。
 花火はいつかは終わってしまうけれど、この想いはきっと永久不滅だ。
 いつまでもあなたと共に。どこまでも、歩いていける。そう信じられるような口づけに溺れる二人の影は、ゆらりとも揺れることなくいつまでも一つに重なったまま。ずっとずっと、そのまま。

Fin.
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