波に乗って

 そうしたところで徐に鳴戸が風呂から上がってしまい「親分?」と呼んでみる。
「ちょっくら湯が熱いから、冷ましながら身体でも洗おうと思ってよ」
「あ、お背中流します」
「じゃあ、頼もうか。言っとくが、痛くすんなよ」
「しません。優しく洗って差し上げます」
 鳴戸は龍宝に背を向けて座り、股間にタオルを乗せる形で前のめりになっている。その背へと回り、立派に刻まれた刺青を背負った広い背に一度口づけ、そっと頬を押し当てこそっと呟く。その顔には穏やかな笑みが拡がり、龍宝の普段は尖った表情はなりを顰めただただ、愛しい人に対してだけ見せるたおやかな笑みが浮かぶばかりだ。
「……お慕い、しています……」
「ん? どうした龍宝。背中流してくれるんじゃないのか」
「いえ、広い背中が何故かとても、なんて言うのか……いいです、流しますね」
 さすが高級ホテルだけあってアメニティも充実しており、ボディスポンジの用意があったので袋から出し、泡だらけにして鳴戸の身体へと滑らす。
 刺青が泡だらけになる頃、ちょっとした悪戯を思いついた龍宝はするするとスポンジを前へと持ってゆき、内股に滑らせてみる。するとぴくっと鳴戸の身体が動いた。
 それに気を良くし、さらに奥へと滑らせスポンジを落としてぬるつく手をペニスへと絡ませ、ゆっくりと扱いてみる。
「おやぶんの……少し大きくなってる。感じますか?」
「こーら、悪戯小僧め。止せって。無駄に勃っちまうじゃねえか。まったく、エロいヤローだな」
「親分の背中を見ていたら少しソノ気になりました。べつに、イけばいいじゃないですか? 夜までに未だ、時間はありますし」
「だめだ、だめだめ! はい、終わりー。後は自分で洗うから、次はお前の番。俺が背中流してやるよ」
「い、いけません! 自分のことは、自分でします。親分に背中を流させる子分なんて、いやしませんよ」
「お前は、ただの子分じゃねえだろうが」
「えっ……」
「場所交代だ。お前は、前に座る」
「あ、あの親分っ……! いけません、親分にそんなことはさせられませんから」
「つべこべ言うと、ここで襲っちまうぞ。いやだったらさっさと前に行きな」
 ほぼ強引に、鳴戸が退いた場所へと座らされた龍宝は居心地悪い中、背中を滑るスポンジを感じる。痛くもなく、とてもいい加減の力具合いに思わずほうっと吐息をついてしまう。
「気持ちイイ……。親分、上手ですね背中流すの。意外です」
「そっか、気持ちイイか。だったら、もっと気持ちよくなっちまうか? んんっ?」
「どういう、意味っ……っあ!! や、めっ……おやぶん!!」
 思わず啼いてしまう龍宝だ。というのも、先ほど鳴戸に仕出かした悪戯を今度は龍宝が仕掛けられ、その手は遠慮なくペニスに絡んで亀頭をくりくりと手のひらで捏ね回してくる。泡の所為で滑りもよく、何とか前のめりになって手から逃げようとするが上手くいかずとうとう緩くでも勃たせてしまう。
 それに羞恥はあれど、今は快感の方が断然強い。
「あっあっ、おや、おや、おやぶんっ! やっ、ここではいやですっ、あぁっ!!」
「声が甘いぞ。蕩けそうなイイ声出しやがって。ここで一発ヤってくか?」
「そ、れは……もっと、いやですっ……んっ、んんっ! あっあっ」
 空いている片手は脇腹のラインをさらりと撫で、勝手に身体が快感を拾いビグンと跳ねてしまう。
 何故こんなにも色事に長けているのか。経験値の差だろうが、悔しいが気持ちイイと思ってしまう自分が、何だかひどく色ボケている気がしてならない。
「や、やっ……おや、ぶんっ、やっめっ……!」
「今日は強情じゃないの。んん? べつに誰もいやしねえんだし、気持よくイっとけや。な?」
 さらに早くなる手の動き。ぬちゅぬちゅといった粘着質な音が耳を突き、潮風が吹き付ける身体を真っ赤に染め、いやがる龍宝だ。
 こんな野外でといった気持ちが強い。
 だが、龍宝とて男。気持ちイイことに勝てるはずもなく、そのうちに甘い声で啼き始めてしまう。
「あ、あっあっ、んっ……あ、はあっ、おやぶんっ……き、き、きもち、いっ、い、イイッ……!」
「おっ、淫乱な龍宝のお出ましかな? イイならイイって早く言えよ。正直じゃない子はきらわれるぜ?」
「あっ、んっ……はあっ、おやぶんは、きらいですか……んっ!」
「いいや、強情なところもかわいいなって。なあ? コッチも素直で相当かわいいけどな。デカいけど」
「やっ、あっ……! ああっ!!」
 快感により思わず背を海老反らせてしまうと、ぱっと手が離れてゆき後ろから手を伸ばしていた鳴戸が立ち上がったのが分かった。
 閉じていた目を開けると、いきなり鳴戸の顔が目の前にあり驚きのあまり眼を見開いてしまうと、その様子がおかしかったのか口角を上げた鳴戸の唇が龍宝のそれに押し当たる。
 角度を変え、何度も口づけられるそれをゆったりと受け止める。
 ペニスは触って欲しかったが、鳴戸と交わす口づけは龍宝にとって特別なものに他ならない。鳴戸とするそういう色事で一番好きなのはやはり、キスかもしれないと遠くで想いながらそっと目を閉じ口を開ける。
 すると迷わず鳴戸の舌が咥内に入り込んできて早速、ナカをまさぐられる。舌を絡め取られ、柔く食まれながらぢゅっと唾液を啜られる。
 そのままぬるぬると舌で舌を嬲られ、つい息が上がってしまう。
「ん、んっ……ふっ、う、んっ……ん、んう、おや、ぶっ……」
 やはり、鳴戸と交わすキスは気持ちイイ。甘い気分が盛り上がってきて、両手を上げて鳴戸の首へ回すと、のど奥で笑われたのが分かった。

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