蒼すぎる空の下で

 空いている片手を鳴戸の首へと回し、強請るように引き寄せ撫でると口づけはさらに激しさを増し、散々貪られ、息が上がる頃に漸く離れてゆく。
「んはっ……はあっ、おやぶん激しい……」
「お前がかわいくて自制が効かなかったんだよ。ぜーんぶ、お前の所為」
「責任転換はよくありませんよ。俺に言わせると、全部親分の所為だと思いますけど」
 すると、咎めるようにちゅっと口づけされ下唇を痛くない程度に噛まれてしまう。そしてしゃぶられた後、ゆっくりと顔が離れて行って二人して砂浜へと仰向けに寝転がる。
「ホント、きーもちいいなあ……」
「ええ、気持ちいいです。きれいな空ですね。潮風が心地いいです」
 暫くの間、沈黙が落ちそれは龍宝から破った。
「なんか、こうしていると世界に二人だけになったような気分になりませんか?」
「世界に二人だけ、か。お前案外あれだな、ロマンチストだな。そっか、でも言われてみれば波の音しかしねえもんなあ。お前と二人きりなら悪くねえ」
「でしょう? 俺も、親分と二人だけ世界に取り残されるならそれもいいと思ってます。俺は、親分だけが居ればいい人間なので」
「おーおー、惚れられてるねえ俺ってば」
「そうですよ、今頃気づきました? 惚れてるんですよ……俺は、親分にずっと、ずーっと」
 また沈黙が落ちたと思ったら、隣からすーすーといった規則正しい呼吸が聞こえてくるのに隣を見ると、なんと鳴戸は寝てしまっていて普段の精悍な顔つきからは想像もつかないような幼げな顔をして眠っている。
 龍宝はゆったりと笑み、鳴戸に寄り添うようにして横向きに寝転がり目を瞑る。
「好きです、おやぶん……これからもずっと、ずっと、ずっと……」
 鳴戸の寝息をBGMにして、陽の光の下ぐっすりと寝入ってしまった龍宝だった。
 そのまま夢も見ずに眠っていると、ふと顔に柔らかなものが何度も押し当たる感触で意識が浮上し、額や頬に唇やのどなど、様々なところに温かいものが触れてきて薄っすらと眼を開けるとそこには優しげな表情を浮かべた鳴戸が至近距離で龍宝を見つめており、思わずもう一度目を瞑ってしまうと、今度は唇にぎゅっと柔らかで湿ったものが当たる。
「んっ……」
 思わず甘い声を出してしまうと、ぺんぺんと頬を軽く叩かれ仕方なく目を開けると、腕時計を指さしてくる。
「チェックインの時間、過ぎてんぞ。そろそろ行こうぜ。おねむは終わりだ」
「……おやぶんが先に寝たんでしょう。ああ、眠たい。はあっ、いい時間も終わりましたね」
「ばか言ってんじゃないっての。これから始まるんだろうが、いい時間は。この調子じゃ、風呂も楽しみだねえ。俺ちゃんと聞いてたぜ。お前の恥ずかしい告白」
「おやぶんっ!!」
 思わず照れて大声を出してしまうと、ちゅっと頬にキスが落とされ頭を撫でたくられる。
「ホント、お前ってかわいいよなあ。食っちまいてえ。きっととてつもなく甘いんだろうな」
「親分の場合は酒の味がしますよ。多分」
 先に鳴戸が立ち上がると、眩しいまでの笑顔を向け龍宝に手を差し出してくる。思わず涙が出そうなほどに優しいその笑みに、口元を僅かに震わせ目尻に涙を溜めながら差し出された手を握ると、その確かな力強い握り方に思わず涙が零れそうになる。
 好きだと思う。鳴戸が、この世界で一番、愛していると心から思った龍宝だった。
 その後、ずっと手を繋いだままで車まで戻った二人はトランクから荷物を取り出し、ホテルへと向かう。
 因みに、鳴戸が持って来た酒瓶は龍宝の鞄の中だ。さすがに、酒瓶片手にフロントへ行くわけにはいかない。
 かなり高級なホテルを予約したらしい。入り口からして既に立派な構えで、自動ドアを二回潜ったところで赤い絨毯が一面に敷き詰められており、向かって右側には喫茶ルームが見え、左側にはフロントがあって、その斜め奥にはエレベーターが設置してある。
 受け付けは鳴戸が引き受けてくれたため、龍宝は斜め後ろに立って待っていると奥から、きっちりとスーツを身に着けた年配の女性がキーを持ってフロントから出てくる。
「鳴戸様ですね? お部屋はこちらになります。ご案内いたしますのでよろしくお願いいたします。わたくし、吉田と申します」
「おーう、おねえちゃんよろしくね。龍宝、部屋行くってさ」
「聞いてますよ」
 すると、吉田は龍宝の持っていた鞄に手を差し出した。
「お荷物、お持ちいたしますが」
「結構だ。それより早く部屋へ案内してくれ」
 困惑した様子の吉田だったが、何しろこの鞄の中には見られてはまずいものが潜んでいるのだ。拳銃など間違えて発見された日には逮捕の可能性だって捨てきれない。
 龍宝の断固とした態度をどう思ったのか、エレベーターに向かう吉田に続くと『8』のボタンが押され、八階だということが分かる。
 客はちらほらと喫茶ルームに見えたが、エレベーターでは誰とも出会うことなく八階まで行き着き、すぐに吉田は突き当り右側へと歩き出し角部屋へと入ってゆく。

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