Baby Baby Baby
道中は、そのままの流れで散々絡み合って過ごし、とうとう小島から苦情らしきものが飛び出す。「あのー……そういうことは、お二人だけでやっていただけないかと……龍宝さんの声が色っぽ過ぎて勃ってきちまいました」
その言葉に、龍宝は顔を真っ赤にさせて運転席を思い切り蹴飛ばす。
「聞き耳立ててんじゃねえっ! この、下衆がっ!!」
「ヒエッ!! す、すみません!! でもー……俺の、こ、股間がもう限界でして」
さらに運転席を蹴飛ばし、小島に怒鳴りつける。
「いいか、今度聞き耳立てやがったらテメエは車ごと崖から落としてやる!! それがいやだったら余計なモン勃たせてねえで運転に集中してろ!! そして……おやぶん!! 俺に恥をかかせるつもりですか!!」
「そんなに怒るなって。小島もすぐ忘れちまうよ。そうだな? 小島」
半分ドスの利いた声で問われた小島はこくこくこくと何度も頷く。
「はいっ! そりゃもう、一瞬で忘れました! お、お二人ともごゆっくりどうぞ!」
「チッ! 調子のいいヤツ!!」
「まあまあ、酒でも飲んで落ち着け。今からは、健全な旅と行こうや。ほら、酒注いでやる。グラスもちゃんと二つ用意してきたんだぜ」
「……その前に、親分は俺の膝から降りてください。健全な旅なんでしょう?」
「チェッ! いいじゃねえか、膝に乗るくらい。ってまあ、親分が子分の膝に乗ってるっつーのもおかしな話か。じゃ、龍宝乗るか? 俺の膝」
「乗りません! 乗りたいけど、乗りませんよ。さ、降りてください。服も整えないと……」
しぶしぶといった体で鳴戸が膝から降り、下を見るとかなりの勢いで服装が乱れており上気して桃色に染まった自分の肌が丸見えになっており、思わず顔を赤らめてしまう。
慌ててボタンを留めようとするが、それは鳴戸に制されてしまい隣に座ったその手で脇腹の辺りに手を突っ込まれ、ざらっと撫でられる。
「お、おやぶんっ! この手はなんです!」
「熱海に着くまで、お前はこのカッコでいろ。眼福、眼福。ほれ、酒。これはいい酒だぞー」
「きちんと服は着ていたいです。まったく、とんでもない人ですよ。呆れます」
片手で火照った顔を扇ぐと、ずいっと目の前にグラスが差し出されつい反射で受け取ってしまうと、カチンと軽い音を立てて勝手に乾杯されてしまう。
それに苦笑し、乾いたのどに酒を流し込む。かなり度の強い酒で、一瞬噎せそうになるがなんとかこらえ、窓の外に目を向ける。
かなり長い間、絡み合っていた所為か景色はすでに一変しており、知らない場所へ来たと思わせる曲がりくねった道を走っていた。
すると、鳴戸のイケナイ手がまた腹を撫でてくるが、それは無視しておいた。因みに、服もはだけたままだ。どうせ、着てもすぐに脱がされるに違いない。無駄なことはしない主義なのだ。
それに、身体も未だ熱くはだけさせておいた方が熱も逃げる。そうでもしないと、今度は龍宝の方から欲しがってしまいそうで、そちらの方が問題だと判断した結果、服はそのままにしてある。
「オイ、なんかラジオでもかけてくれ。旅気分を味わわねえとな」
鳴戸が小島にそう言うと、車内にジャパニーズポップスが流れ出す。だが何しろ音楽を聴く趣味を持たない龍宝には何の曲だか分からないが、調子が良く車も流れるように道を走ってゆく。
道中は何気ない話をして過ごした。いつも通りの鳴戸が陽気に話かけてくれ、龍宝も微笑を浮かべながら話に乗って楽しい時間が過ぎてゆく。
グラスを傾け、窓の外へと目を向けるとすいっと傍に鳴戸が寄ってきて耳の後ろにちゅっと口づけられ、胃の辺りを撫でてくる。
「親分、いけませんよ」
「ちょーっとくれえいいじゃねえか。それにしても、結構長い道のりだな。オイ小島、未だ着かねえのかい」
「あともう少しです。そろそろじゃないでしょうか」
そう小島が返事をしたところで視界があっという間に開け、目の前には海原と砂浜が拡がる。
「おおー! 海だぜ龍宝! 海、うみ!」
「分かったから落ち着いてください。海なら東京湾があるでしょう」
「そういうのとは違うだろ。まったく、旅情の分からないやつだねえ」
それから暫くの間、海沿いの道を車は走り続け二人のテンションがいやでも上がる頃、オーシャンビューの高級そうなホテルの駐車場へと車が入って行き、白線に沿ってピタリと停められる。
そこで漸く、服装が整えられた龍宝はボタンを留めネクタイもきっちりと締めて車から降りた。すると感じる、潮のにおいと打ち寄せる波の絶え間ない音。
時計を見るとまだチェックインには時間があったため、ある提案をしてみる龍宝だ。鳴戸がなんと言うかは分からないが、取りあえず言い出してみる。
「なんだったら、荷物はトランクに入れておいてそこらを歩いてみませんか。折角砂浜も目の前に広がっていることですし」
「いいな、ちょっくら歩くか」
小島には多めの金を手渡し、そこらで飲んで来いといって追っ払うと二人だけの空間が拡がる。
海岸線沿いを少し歩くと、砂浜に出られる階段を見つけたため揃って降りて砂浜を歩き始める。
すると、鳴戸が渋い顔をして靴を脱ぎ始めた。
「こりゃいけねえや。靴ん中が砂でじゃりじゃりしやがる。脱いじまおうっと。龍宝お前は?」
「俺も脱ぎます。靴下が砂まみれですね」
改めて足を砂の上に置いてみるとなんとも気持ちがよく、波打ち際をゆっくりと歩く。