幸福と至福

 そう思うだけで、イキの波はすぐにやってきて龍宝を攫ってゆく。
「あああああっ!! い、い、い、イクッ……! イクイクイクイクイクッ!! ああああイックうううっ! あっあっ、あああああっ、ああっあっあっあー!! イックううううう!!」
 目の前が真っ白にスパークする。後、爆発的快感が下半身に集まり、それらはすべてペニスに持っていかれ、ぶくぶくっとペニスが膨らみ勢いよく鈴口からザーメンが発射され、龍宝の腹と鳴戸の腹を濡らす。
 一方の鳴戸も龍宝のすぐ後を追うようにイったらしい。
「ああああクソッ! 俺もイク! イクイクイクッ……クッソ、気持ちイイッ! イクッ!! おい、ナカ出すぞ。中出しいいなっ? っく、イク!!」
「だ、だしてっ! 出してください!! おれにっ……おやぶんの子種汁くださいっ! しろいの、ナカ出してっ……!」
 ガクガクガクガクッと、二つの身体が不自然に傾ぎ捩れ、まるで叩きつけるように下半身を押し付けられると、その上で胎内の奥深くに何度も飛んでくる熱を感じる。そして、ナカにいる鳴戸がビクビクと痙攣しているのも分かり、イっているのだと教えてくれる。
「はあっはあっ、ああああっ……ナカ、熱いの拡がってる……おやぶんの、白くて熱いの、ナカで拡がって、気持ちイイ……あっ、はあっ」
 両脚を解放され、そのままベッドに沈むと足の間に収まっていた鳴戸が伸び上がってきて、思い切り唇を塞がれてしまう。
 両頬を手で包まれ、唇を何度も舐められる。半分夢見心地で応え、口を開けるとぬるりと咥内に鳴戸の舌が入り込み、乱れている呼吸ごと絡め取る勢いでナカをまさぐられ、苦しさのあまり思わず、鳴戸の背に腕を回し爪を立ててしまうが、気にする様子もなくさらに激しいものを強いてくる。
「んは、んは、はあっはあっ、んっんっ、おや、おや、おやぶっ……んんっ」
「龍宝っ……!」
 口のナカを犯される勢いで貪られ、唇がやっと離れてゆくがすぐに熱が引いてしまうのが淋しく、追う形で龍宝から口づける。
 舌と舌とを絡み合わせ、唾液を啜り合って飲み下し、硬く抱き合う。
「はあっ、は、はっ……おやぶん、すき……すきです」
「かわいい、野郎だなあオマエは本当に、かわいいヤツだよ。よしよし」
 手で頭を撫でくられ、知らず幸福の笑みを浮かべてしまう龍宝だ。いつだって、鳴戸の腕の中は温かく、そして居心地がいい。
「ん……おやぶん……気持ちイイ、おやぶんの腕の中、すごく気持ちイイ」
 汗で少し湿気って熱の篭った背を、上下に撫でる。鍛え上げてある所為か、ごつごつとしているがその感触も、龍宝にとっては愛しいものに他ならない。肌からかおる温かなにおいも、大好きだ。
 事後の時間のこの甘ったるさは何者にも代えがたく、尊い。互いの情熱を心行くまでぶつけ合い、そして幸福に浸るこの時は至福以外、何者でもない。
 互いの体温が同じくらいになり、一緒になって蕩けてしまうようなそんな甘さを秘めた抱擁が、大好きだと思う。
「おやぶん……んん」
「なんだ、呼んだか」
「呼んでみただけ、です。はあっ……本当に気持ちがイイ。寝てしまいそう……おやぶんは、あったかいですね」
「お前の体温が低すぎんだよ。低温動物でもあるめえし。でも、今は熱いな」
「おやぶんの体温が移ったんですよ。そして、俺もあったかくなった。……とても、幸せです」
「俺は酒が飲みてえな。おい、冷蔵庫の中になんか無いか?」
「……親分。酒と一の子分、どちらが大切なんですか。酒なんかどうでもいいです。未だこうしていたい……」
 そうやって愚図ると、頭をわっしわっしと撫でられベッドから降りてしまう鳴戸を眼で追う。
「酒取ってきたらすぐに戻るからちっと待ってな。聞き分けのない子はきらわれるぜ」
「きらいですか、俺が」
 だが、鳴戸は返事をせず全裸のままさっさとキッチンの方へと歩いて行ってしまう。完全にむくれる龍宝だ。
 鳴戸に背を向ける形で横向きに寝転がり、目を瞑っていると足音が聞こえ次いで、ぎしっとベッドが大きく軋む。
「おーい、帰ったぞ。へそ曲げてねえでこっち向けよ」
「親分は俺より酒の方がお好きでしょう。いいですよ、好きなだけ飲んでてください。俺は寝ます」
「なあ、龍宝ー」
「知りません。寝るのを邪魔しないでもらえますか。飲むならお静かに願います」
 にべもない龍宝の言葉をどう取ったのか、グラスを床に置くことんという音が聞こえ後、鳴戸がベッドへと入り込んでくる。
 だが、そのまま無視を決め込んでいると突然だった。ふっと耳に息が吹きかけられちゅぷっと音を立てて耳を舐められたのだ。いきなりのその刺激に思わず啼いてしまう。
「んっ! や、おやぶんっ!」
「そんなに怒るなって。な? かわいこちゃんにはこっち向いててもらいてえんだよ。ほら、俺にツラ見せな。親分命令だぞ」
 そう言われてしまっては、見せないわけにもいかない。
 しぶしぶといった体で身体を反転させると、額を大きな手で覆われ、優しく撫で擦ってくる。その片手にはグラスが握られており、琥珀色の液体が揺れている。
「かわいいツラのお出ましだ。お前はずっと、俺の方向いてりゃいいの。よしよし」
「俺はガキじゃないんですよ。そんなことでは騙されませんからね」
「あーそう。んじゃ、これを聞いてもお前はそんなこと言ってられるかな?」
 妙に思わせぶりな言葉面に、疑問を浮かべると、にかっと鳴戸が明るい笑い顔になり、額を親指で擦りながら話し始める。
「言い忘れてたことがあってな。今日からちょうど一週間後、熱海に旅行に行かねえか。俺とお前、二人きりで」
 その言葉に、龍宝は驚き一瞬言葉を無くすがすぐに立ち直り詰め寄るようにして鳴戸に近寄り、腕で身体を支え、刺青の入った背に手を置く。

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