愛のゆくえ

 これもすべて、演技のうちだ。尻尾を振って頷くのはなんとなくプライドが許さないというのもある。
「また俺の家ですか。……いいですけど、わがままはだめですよ」
「なんだよ、わがままって。いいじゃねえか、龍宝よ。俺とお前の仲だろ。よーっし、思いっ切り羽根伸ばそうっと」
「俺の家はペンションじゃないんですよ。まったく……仕方のないお人です」
「お前だって嬉しいだろー? 俺が家に来てさ、なんだよ迷惑か?」
 それには即答する龍宝だ。照れのあまり、ひん曲がったことをつい言ってしまった。
 後悔を乗せ、今度は思い切り素直になり笑みを乗せて鳴戸の手を引く。
「いいえ、嬉しいです。それは、すごく。では、そろそろ帰りますか。家でゆっくりするには、もういい時間です」
 だが、逆に手を引かれてしまいまたしても抱き込まれる。そして降ってくる、熱い口づけ。
「んっ……いけませんよ親分、こんなところで……ふっ、うん!」
 文句は鳴戸の口の中に消え、それと共に唇を大きく舐められる。頬を両手で包み込まれ、咥内に入り込んでくる舌。龍宝も応えるように舐め、湧き上がってくる二人分の唾液をのどを鳴らして飲み下す。
 そのうちに奪い合いになり、濃厚な口づけに溺れているとふと、足音が聞こえたため身体を離すと、どうやら隣にある女性用のトイレに用だったらしい。
 それが分かると、今度は龍宝からキスをけしかけ鳴戸の唇を舐める。
「イケナイ子だな、お前も」
「いけないのは親分でしょう……? 親分なら、子分の躾くらいしてください」
「じゃ、ここで躾けてやろうじゃねえの。ん?」
「イケナイ大人だ……」
 少し首を上に傾けると、唇にふわりとした優しい感触が拡がり、同時に湿った温度を纏いながら唇を何度も舐められる。龍宝も負けじと舐め返し、またしても濃厚な口づけが始まる。
 ちゅくちゅくと秘めやかな水音がトイレの中に響き、龍宝は鳴戸の肩に両手を置き鳴戸は龍宝の頭を抱え、髪を梳きながら互いの舌を絡め取り合い、唾液を飲み下しては咥内を吸ったり、舐めたりを繰り返す。
 ふっと唇が離れ、すっかり息の上がった龍宝は鳴戸の肩に額をぐりぐりと押し付け、甘えると耳の上でふふっと鳴戸が笑い頭を優しく撫でてくる。
「こんの、煽りやがって。とんでもねえ悪ガキだな。大人をからかうとどうなるか、教えてやらねえといけねえな、身体に」
「性教育なら上等です。大人な親分とのセックスはいい勉強になりますよ」
「またからかいやがった。ここで抱かれてえのか。早く家行くぞ。さっさと生意気な言葉も出ねえくらいブチ犯してやりてえ」
「やっぱり、イケナイ大人ですね。イケナイというより、アブナイ大人、ですかね」
「どっちでも構わねえよ。さっさと店出ようぜ。あんまり焦らすなよ、きらわれるぜ。そういう遅漏の男は」
「遅漏は、お嫌いですか? 俺は、結構好きですけど。焦らされると燃えるんです、コッチの方は」
 そう言ってぺろりと鳴戸の唇を舐めてみせるとじわっと、鳴戸の眼に欲情という炎が灯ったのが分かった。思わずこくりとのどを鳴らしてしまう。
 後、何故か笑いが込み上げてきてしまいくすっと笑ってしまうと両頬を手で包み込まれ、軽いキスの後、鳴戸が離れてゆき「俺の用が済み次第、お前んちな」そう言って前を寛げ始めるのに、何故か照れてしまい慌ててトイレから出て席へと戻る。
 鳴戸はすぐに戻ってきて、二人揃って店から出ると初夏の爽やかな夜の風が吹き、酒の入った火照っている身体が心地よく、思わず大きく息を吸ってしまう。
「いい季節になりましたね。あなたに初めて抱かれた夜は未だ、寒かったと思うのに何だか、不思議な気分です」
「不思議か? 俺はそんなでもねえかな。ああでも、不思議といえば不思議か。俺もお前とこんな関係になるなんて思ってなかったもんなあ。感慨深いぜ。なあ? 俺のかわいこちゃん?」
 そう言って肩を抱いてくるのに、龍宝は周りを見渡し抗議の声を上げる。
「ここではだめです! 家に着くまで我慢ですよ。いい大人のすることじゃありません!」
「俺はいい大人じゃねえし? 極道だぜ。なんだって、力で解決だわな」
 それについてまた言い返そうとすると、ネクタイを掴まれ無理やり引き寄せられたと思ったら、さっと素早く唇を奪われてしまい、突然のことに顔を真っ赤にする龍宝だ。
「親分は! だめな大人です。早く帰りましょう。こんな所に居てこれ以上変なことされたらたまりませんよ」
「変なこととは何よ。愛ある行為じゃねえの? 龍宝くんの愛はどこにあるのかな?」
 ここで龍宝の負けず嫌いの悪い癖が出てしまう。
 道行く人がいる中、鳴戸の頬を両手で包みぷちゅっと唇に吸いつき口角を上げてみせる。
「愛は、ここにありますよ。さ、帰りましょう。押し問答もそろそろ飽きてきました。それより俺は……親分と、違うことをしたい。もっと、愛のあるやらしいコト……」
 そう言って耳にふっと息を吹き付けると軽く頭を小突かれてしまう。
「いたっ! ちょ、親分!」
「大人をこれ以上からかうんじゃねえの。帰るなら帰ろうぜ。本気で欲しくなってきやがった。股間がヤベエな」
「ほら、イケナイ大人だ」
 龍宝はそんな鳴戸を笑い、鳴戸も笑みを浮かべて酔っているフリをして、二人で肩を組み歩き出す。
 向かうは、龍宝の自宅だ。

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