一生守りたい心臓

 すると、飲み過ぎたのか急な尿意が龍宝を襲い、徐に席を立つと間髪入れず鳴戸が口を挟んでくる。
「親分、ちょっと」
 直接的な言葉を使わず、鳴戸の傍を通り抜けようとすると手を引かれて、引き止められてしまう。
「寄り道はよくないぜ」
「どこへ寄るというんですか。ちょっとした用ですよ」
「ああ、そっちか。ん、早く帰って来いよ」
 ポケットにハンカチの用意があることを確認しつつ、男子用トイレへと向かい用を足し、丁寧に手を洗っていたところだった。
 徐に扉が開き、反射でそちらを見ると顔を出したのは鳴戸にかなり熱を上げているといった意味で有名な女だった。その目つきは鋭く、憎々しく龍宝を睨みつけている。
 だが、そんなことで怖がるはずもなく、薄く笑いながら、蛇口を捻り水を止め鏡に映る自分の姿を眺めつつ女を牽制する。
「なんだ。ここは男子便所だぜ。躾がなってねえな」
 すると微かに耳にパチンといった折り畳みナイフの拡げられた音がしたので、女に分からないよう警戒を強め、両手が塞がらないよう髪を整える仕草をしつつ、女の行動を待っていると案の定、小型のナイフ片手に女が突っ込んできて、ひょいっと避けた龍宝はその手に手刀を食らわせると、ナイフが硬い音を立てて床に落ちる。
 容赦のない手刀だったため、女は呻いて手首を庇いつつさらに怒気が強まった目つきをして、身体を震わせては悔しそうに拳を握った。
 龍宝はそんな女を見てふてぶてしい笑みを浮かべ、落ちたナイフを拾う。
「組の息のかかったバーで、よくやるぜ。どいつの命令だ?」
「命令なんかじゃないわよ。鳴戸さん、アンタを連れてくる前は必ずアタシの家に泊まってくれてたのに最近では来てもくれなければ軽くあしらわれてばかりで……全部アンタの所為!」
「オイオイ、ただの言いがかりじゃねえか。まったく、女の嫉妬は醜いねえ。……消えな。いくら頑張っても俺にナイフの先も刺さらねえぜ。そんなにヤワじゃねえぞ。本当は場末のソープに叩き売ってやってもいいが、いいか、許すのは一回だけだ。明日からこの店に来るな。お前はクビだ」
 龍宝は拾い上げたナイフを投げ、それは女の頬を掠り壁に突き刺さる。女の顔が一気に青ざめ、突き刺さったナイフを信じられないといった表情を浮かべ横目に見ている。
 そうしたところで徐に鳴戸がやってきて、龍宝と女、二人を交互に見て陽気な笑みを浮かべた。
「なんだ、修羅場か龍宝」
「茶化さないでくださいよ」
 龍宝は目線だけを女に送り、強い口調で怒鳴りつける。
「さっさと消えろって言ってんのが分からねえのか!」
 龍宝の一喝で、女は涙を零しながら鳴戸を縋るような目で見るが、鳴戸はなにも気にする様子はなく、ただの他人を見るような目で見るだけで、女は悲しみの表情を浮かべその場を立ち去った。
「やっぱり修羅場じゃねえか。お前もモテるねえ」
「その逆です! これで二回目ですよ。親分を俺に取られたと思い込んでる女の勘違いで命狙われたらたまったもんじゃないです」
「とか言って、女に殺られるほど間抜けでもないだろ、お前は。んじゃ、そろそろ帰ろうぜ。俺の所為だってんなら、家で思いっ切りかわいがってやるからよ」
「またそんなことを言って! 女関係がだらしないのは知っていますが、もう少し整理したらどうですか」
 呆れながらその場を立ち去ろうとすると、腕を引かれてしまい一瞬戸惑うが、すっと鳴戸が身を屈めてきたため、その意図が分かったので龍宝も鳴戸の首に腕を回し口づけを受け止める。
 てっきり軽いものしかしないと思っていたのだが、鳴戸は角度を変えて何度もキスを強請ってきて、そのうちに口を舌先でノックされたため、大人しく口を開けるとするりと酒の味を纏った鳴戸の舌が咥内に入り込んでくる。
「ん、んっ……んん、ふっ、は、あっ……んむ」
 つい啼いてしまうと、鳴戸がのどの奥で笑ったのが分かった。少し悔しくなり、龍宝からも舌を伸ばして鳴戸の舌を柔く食むと、食み返されくちゅくちゅと水音を立てながら激しくも甘い口づけに溺れる。
 そのうちに鳴戸の両手が龍宝の腰に回り、ぐっと下半身を擦りつけられる。そこは緩やかに勃起しており、思わず顔に熱が上がってくる。
「んっ……」
 龍宝も同じようにして下半身を突きつけると、鳴戸が口づけの合間から「ふっ……!」と色の乗った吐息をついたのが分かった。
 そうやって興奮を押し付け合っていると、ふっと唇が離れ至近距離での見つめ合いが始まる。
 鳴戸の目には明らかな欲情が浮かび上がっており、きっと自分も同じような顔をしているだろうと頭の片隅で思ったが、それは思っただけに終わりぎゅっと硬く抱きしめ合う。
「はあっ……親分、カラダ熱いっ……! 早く抱かれたい」
「んー……じゃあそろそろ帰るか? 未だ飲み足りねえけどセックスした後また飲めばいいか。よし、お前んちに行くぞ」
 鳴戸はノリノリの勢いで、龍宝の足の間に太ももを割り込ませ、下から突きあげるように動かしてきて、それに息を上げながら揺さぶられつつわざと仏頂面を下げてみる。

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