求婚リジェクト!

※『Hekiraku』らなさんへ捧げもの。
※マリーちゃん(お相手:ラギー)が出てきます。





 ゴーストの花婿として選ばれたイデアと、そして彼を助けるために散ってしまった生徒たちを救うために、オペレーション・プロポーズに参加して欲しい。
 そう持ちかけてきた監督生たちを追い返したラギーは、大げさにため息をついた。そのため息にはふたつの意味が込められていた。
 ひとつは、厄介事に巻き込むなよという気持ち。もうひとつは、一連のやりとりをこっそりと見ている少女に「気付いているぞ」ということを伝えるために。

「マリー」
「!?」
「うまく化けてるつもり?バレバレッスよ」

 ラギーは木の上を見上げた。そこには一羽の鳥がいた。その鳥はどこか挙動不審で、落ち着かなさそうに首を左右に振ったあと、煙と音を立てて姿を消した。
 代わりに現れたのはひとりの少女、マリーだ。
 変身魔法の一種をユニーク魔法として持っているマリーは、鳥に変身して鏡舎に忍び込み、サバナクロー寮に通じる鏡を通り、ここへ来た。寮にだけは来るなと常日頃から口酸っぱく言われていただけに、マリーは気まずそうだった。
 ラギーはじっとりした目でマリーを見下ろし、二度目のため息を吐いた。

「サバナクロー寮には来んなっつったでしょ?しかもそんな小さな鳥に化けて。色んな意味で食われても知らないッスよ」
「い、色んな意味……?」
「で?何しに来たんスか」
「えっと……」

 いつものように、動物に変身したマリーがナイトレイブンカレッジに忍び込んでいたときのことだった。突然、そこら中にゴーストが溢れかえって、生徒たちを校舎から追い出し始めた。
 マリーが動物の姿のまま様子を見ていたところ、理想の王子様を見付けたゴーストのお姫様が、これから結婚式を挙げるのだということがわかった。その王子様というのが、ナイトレイブンカレッジの生徒であるらしい。そして、ゴーストとの結婚は命を落とす行為だと知った他の生徒たちが、学園長に脅されながら、花婿として選ばれた生徒を助けるべく奮闘しているのだ。
 しかし、生徒たちは次々にお姫様からこっぴどく振られ、残る花婿候補も僅かとなってきた。花婿候補を掻き集める作戦で「ラギーにも声をかけてみよう」と案が出たため、マリーは慌てて監督生の後を追ってサバナクロー寮についてきたのだった。

「ゴーストのお姫様に捕まってる生徒を助けるために、みんながお姫様にプロポーズしてるって聞いて、ラギーも行くのかなと思って」
「行くわけないでしょ」
「でも、ラギーのユニーク魔法を使ったら一発でお姫様に指輪をはめられるんじゃない?」
「うわ、それ思いつくなんてマリーもなかなか悪いッスね〜」
「だ、だって生徒の命がかかってるんだし……!」
「はっ、心に決めてる人がいるのに、なんでゴーストなんかにプロポーズしなきゃいけないんスか」

 マリーは思わず言葉を失った。ラギーはオペレーション・プロポーズを「心に決めている人がいるから」という理由で、断ったのだ。面倒だからとか、ギャラが出ないとか、そんないかにもラギーらしい理由ではなく。たったひとりの胸の中にいる誰かへの想いに嘘を付きたくはないから、と。
 少しだけ、マリーの胸の奥がちくりと痛んだ。ラギーの心をそこまで射止めているのは一体誰だろう。
 痛みを誤魔化すために、わざと声を大きくしてぎこちなく笑って見せる。

「調子いいこと言って!バイト代が出てたら行ってたんでしょ!」
「行かない」

 普段の軽い口調ではなく、強くはっきりとした口調で。ブルーグレーの瞳を、真っ直ぐにマリーへと向けて。ラギーはそう言い切ったのだ。

「まぁ100万マドル積んでもらったら話は別ッスけどね!シシシッ」
「も、もう!本当に調子いいんだから」

 いつもの口調に戻って笑って見せるラギーに、先ほどの面影はない。でも、あれも確かに彼だった。
 あの言葉が冗談なのか真実なのか、確かめる術がマリーにはない。でも、どうか冗談であって欲しいと願ってしまうくらいには、マリーの中でラギーという存在は大きくなっていた。

 ラギーの言葉の真意と、心に決めている人が誰なのか。マリーが知るのは、もう少し先のお話。


2021.06.30

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