雪解けチョコレート

※『ラズベリー少女と白線』内山夏さんより書いていただきましたので、許可をとって掲載させていただきます。ありがとうございました!


* * *


今となっては一年前の出来事。
夢魔の混血である彼女が同性の友人を得た、チョコレートがほろりと雪のように溶けた日。

ヴィルのマネージャーとなってからまだ日は浅いけれど、この学園に住むことの許可を貰ったリリスはヴィルにお使いを頼まれた。
ミステリーショップにお使いを頼まれて店を訪れると、サムの明るい声と共に木霊するように「いらっしゃいませー」と女の子の声が聞こえて、リリスは目を留める。

「あら、このお店にもアルバイトが居たのね。それも女の子」
「いらっしゃいませ。何かお求めですか?」

鈴の音のような声と共に声をかけてきたのはピンクブロンドのツインテールを揺らす少女だ。

「ここでも女の子が働いているなんて驚いた。学園長も寛容な訳だわ」
「私も今年からこの学園で働き始めましたんですよ。だからあのヴィルさんのマネージャーとなったあなたの話は聞いてます、リリスさん」
「あら、私の名前を知られていたのね」
「ふふ、あのヴィルさんの隣にお綺麗な方が立っていたら目立ちますから」

綺麗と言われたリリスは胸を張るようにでしょう、と頷いた。
自分自身の価値を認めて誇れる素直さと、自己評価に、エミルは彼女がヴィルに興味を持ってマネージャーとなったらしいことに納得した。

「私の名前はエミルです。以後お見知り置きを、リリスさん。新商品の化粧品だとか、詳しいですよ」
「そうなのね、頼りになるわ。えーっと、エミルさんと呼んだ方がいいかしら?それとも、エミルちゃん」
「……エミルちゃん……なんだか、特別な響きがしますね」

リリスはエミルの綻んだ表情に、こう呼んでもいいのだろうと安堵する。
何せリリスだけでなく、エミルにとっても。二人にとって、同性の友人というのはそれだけ珍しかったのだ。
「また来るわね」と声をかけて、目当てのものを買ったリリスはミステリーショップを後にする。
女性の夢を食べる訳ではないけれど、何となく、彼女の夢はきっと氷菓子のようだろうと思ったのだった。





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