反芻している。もう会わない人たちの記憶を少しずつ手繰り寄せ 何度も何度も投影する。 16くらいの頃に知り合った彼は、もう一人の青年と体を共有していた。顔立ちは美しく 細い手首、虚ろな目、いつだって寂しがっていた。深夜の池袋 座り込んで泣きじゃくる彼は自身の手に煙草の火を押し付けた。会わなくなってもう随分経った。「この傷跡が治る頃には、皆の前からいなくなるね」。 飛ぼうとしたあの子も薬に塗れた彼も夏の初めの火葬場も月と話せる物書きも、忘れないでいたい。擦り切れない様に大切に 何度もなぞっては思い返す。
 





日中は異常な程の眠気に襲われ 夜は眠たくなれず一睡も出来ない事が多い 最近になって漸く色々な抵抗が薄れお陰で起きていられる様にはなったけれど、いつまでこの儘なのだろうか。信じられない位に美しいのは溺れた時その時に見た水の泡 上へと昇って行く記録 骨ばった背中に印をつけたらどうにか生活もできるでしょう。手を繋いで眠れば共有できるのか。手を引く彼は知らない顔だった 誰だったのか未だに分からず、焦がれている。どうせ、安定出来ないから必要のない錠剤 彼はそれに縋っている 青、白、楕円、こんなものに縋って 自分だって本当は、情けなく いたって健康なのに、どうしてこんなもの。何食わぬ顔で息をして街を歩いている 不特定多数に成り下がる彼らを羨んでいる、他人からすれば誰だって同じだ 私も隣人も。どうすればいいのだろう、本当に、わからない。何もわからない。月が遠い。
 





二人の生活には一体何が残るだろうか。「君は、遠い先のことを考えすぎて、今を見失っているような気がする」「そうかもしれない」私はラッキーストライクを、少し燻らせる。深夜に並べる言葉、吸殻ばかりが積もって行く。戻ってきてしまった。居心地のいい場所 ずっとは居られない。都会の空気は好きじゃあないな、慣れないな、明日はどこへいこうか 人がいないところがいい くるりと廻って毛布に包まるそういう遊び、とても簡単な遊びだろう。ふと、現実を見てしまうと心細い。目を瞑ってみて、だなんて柄にもない言葉を寄越して彼は少し屈んだ。目をあける。何事もなかったかのように煙草に火をつけた彼の睫毛が震えていた。たった一滴には気づかないふりをして、私もまた、煙草に火をつけた。
 


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