いやだな、なんて思いながらもみつきは
苦虫を潰したかのような表情をしながらも外廊下を
歩いていた、前から来るヒトに気が付かずに。












「みつきさんって蝉苦手?」
「・・・死んだと思って近くにいったら動くなんて反則よ。」
「判る。でも驚いたよ。」
みつきさんと呼ばれたおさげの髪の毛が妙に似合う少女は
後ろに座っている少年に声に思わず返答をした。

彼の名前は知っている、宇海 零という進学校に入っている一人だ。
特進クラスで鬼のような秀才と謳われている男だというのは
知っている。
みつきは特進クラスの一人だが、勉強は嫌いだし
親が進学校に行かせたかったから頑張っているだけであった。
学校なんて特に好きでもなかった・・・が宇海零の密かなファン
であることには変わりはないのもまた事実。
皆に人気の宇海零が目の前にいる・・・だが
彼女にとっては今はそれどころじゃないのであった。




図書室からの帰りの通路で仰向けで死んでいる蝉の前を
意気込んで、だがゆっくりと通り過ぎようとした時には
敵は気が付いたのかビビビビ!と羽根をバタつかせて
みつきが大声を出しながら全力疾走した結果、前から何も知らずに
歩いてきた零とぶつかってしまったのだ。
しかも、血が出てしまってみつきは保健室に一緒に同行行き。

保健室に先生は居なく、暑い空気が充満していた。
「(暑い・・・!でも窓開けたくないな・・・蝉がひっつくのいや)」
思い出したのか、保健室の先生が隠しているリモコンも発見して
少々部屋を涼しくしようとスイッチをつけた。
去年保健委員会にいたみつきにとってはドコに何があるのかはわかっている為
テキパキと必要なものを見つけると丸イスに座っている彼を見る。






・・・うわあと心が急にドキドキと動きを早めた感じがする。
顔が真っ赤にならないだけマシだった。
右にあるベッドの上に鞄と本を置き、パタパタと彼の所へと
戻ってきた。
「・・・本当にごめんね。」
「いいよ別に。」
消毒液をティッシュに染みこませて患部をそっと当て
痛くないようにしようとしたときねえ、と上から声が聞こえる。
その声は勿論その場にしかいない零の声。

「セミって何で鳴くと思う?」
「・・・雌のセミの求愛だよね・・・確か。」
「そう、あとは餌の場所を知らせる合図だったり、敵を教えたりと
色々らしいけど。」
急にどうしたんだろう、と思いながらも次はとりあえず
バンドエイドを貼り付けた・・・これでいいかな・・・
なんて思いながら零にかけた。



「でも求愛=プロポーズの最中ってことでしょ?・・・
ロマンチックだよね。」
先ほど言った自分の言葉でふと思った言葉が自然と漏れだした・・・。

蝉と言えども生物であり、生きているものなんだと。
今も外では蝉がミンミンミンー!と一生懸命鳴いているのは
ただ雌のセミへと愛の告白だと思えばいつも聞いているのが
告白大会最中・・・そう想像したらわらえるものだ。
付け加えるようにまた零に向かって話をしはじめる。

そう思ったら雌の蝉はオスの蝉のどこを好きになるのだろう・・・
蝉の声?声の大きさ?それとも顔?・・・顔なんてわかるのだろうか
とまた笑みがほろりとこぼれてしまい零は驚いた。
「・・・みつきさんからその言葉聞くとは思わなかった。」
「・・・ぇ?」
「いつも女子とかとあまり話さないし、キライな蝉にそう
言えるんだなって。」
先ほどまで蝉の事を面白く考えていたみつきの顔が
いつもよりも楽しそうでついそんな言葉が零から漏れた。
その言葉が妙に引っかかるのかみつきの顔が楽しそうな顔が
消えて行った。

何よ・・・最初に質問して来たのは宇海君じゃない・・・と思いながらも
ぷーっと口を尖らせて「じゃあ、私先に帰るから!」
と保健室のベッドに置いてある鞄に手をかけた時腕を捕まれたのか
急に引っ張られ何!?と後ろをもう一度振り向いた時
ゴチン、と鈍い音と鈍い痛みが伴った。

それと同時に保健室の扉が勢いよく開かれた。
なんていうタイミングなんだ、と思うが零もみつきも
緊張が走る・・・勢いよく上から何やら覆われ視界が消えた。
さわり心地からして、それはかけ布団だった。





「あー!?保健室涼しい!」
「ホントー。あ・・・蝉バクダンでさっきみつきさんの声が上がったよね。」
「あー、みつきさんの声聞こえたね」
みつきは二人の女子の声を聞いた事がなかった。
自分の名前が知られているというのを今初めて知ったのもあり
同時に死にかけの蝉に大声を出して驚くのは
自分だけじゃないのかともツッコミを入れたかったが

ググッと我慢をしていたのだ。
しかし、この子達はどうして保健室に?と耳を済ませながらも
みつきは考えた。が彼女たちの声を聞いていると怪我したから
勝手に〜とまで聞こえてきた。自分と同じく消毒の為と妙に納得した。

「そうそう。ちっこくて可愛いよねー、おさげも特徴的だし。」
「ドンくさい所はあるけどね。」
「そうだよね!喋ったことないけど・・・ねぇ!蝉バクダン怖いからトイレ付いて来たよ!
多分驚かないけど」
消毒は終ったのだろう・・・しょうがないなー!と女子のトイレの付き合いに
いったのかしまる音が聞こえてシンッと静まり返った後
覆い隠れていたふとんをのけて、みつきはベッドから降り
零も無言で降りた。


すぐみつきは零を見て驚いた表情のまま彼に小さく呟いたのだ。
「・・・私って名前覚えられるほど頭よくないんだけど。」
「オレは知ってたよ、みつきさんの事」
「!なんで!」
声が自然と大きくなった。それはそうだ。
勉強も特進クラスには入ったけどテストの順位は下から
数えるほうが早く見つかるし、天然パーマが嫌いで
しっかりと結んだミツアミだって可愛くなくて
大嫌いな自分をなんで皆知っているのか・・・わからない。
自分の嫌いな所が無限大に見えてくる、小さく、蚊のなく
声のように小さく嫌な所をいってのけた。
しかし、そんなマイナスなみつきを目の前でみていた零が笑う。
「みつきさんは悪いけど小さい視界しか見てないだけ。
本当はみんなみつきさんを知ってるよ。」
「・・・」

「オレみつきさんが笑った顔初めて見て嬉しかったな。新しい発見。」
いつも眉間に皺寄せて楽しそうじゃなかったし
でも今日のみつきさんはいつものみつきさんなんだよね。
という零にみつきはただただ口をパクパクとさせるしかなかった。
「みつきさん、オレ君の事キライ?」
「・・・じゃないよ、同じ特進クラスだし。」
「そう?じゃあ今日オレと一緒に帰らない?同じ方向だろ?」
「・・・え?」
「蝉バクダンにあった時は、対処するよ?」
笑って言う零の表情や言葉をみて
みつきは唖然とするも、彼の言葉に反応するかのように
足を一歩、前に踏み出していた。
初めて、この学校でちゃんと人と話をした気がした。
保健室から出たとき、ひんやりとした保健室とは対照に
廊下は熱くて、蝉の鳴き声が一層に吹奏楽部にすら負けない位に
大合唱が2人の耳にこびりついく・・・
昇降口を出ても、歩いても・・・雌の蝉へのプロポーズを示す鳴き声は
止む事はなかった。
・・・そして、みつきと零の話も、なぜか絶えることがなかった。









唐突サマーロマンス。









「ちなみに今は蝉バクダン少ないけど秋になったら
大量だよ?みつきさん。」
「・・・宇海君、私もう蝉に夢とか恋愛とかの例え話をしても
効かないかもしれないです。」

結局蝉バクダンは夏の終わりに大量発生して
みつきの声が学校中に聞こえるのでありました。







2011.08.09


意味わからない笑 落ちでごめんなさい。
ちなみに私は蝉なんて嫌いです。ってか虫全般苦手。無理。


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