仲間入り



とりあえず今の状況を話そうと、一同はダイニングに集まる事にした。

「え!私、3日も気を失ってたんですか…!?いや、その前に島はどうなりました!?村の皆は…っ、あれ、そういえばなんで私は今船にいるのでしょう…?」

「いや、まぁ、そういう反応になるよな…」

「その狼狽えっぷりは正常よ、エマ…」

「島は出た。そんでお前はおれの仲間にしたから連れてきた。偉いじーさんに許可も貰ったぞ」

「!?」


エマの疑問に、なんとも簡潔にルフィが答えた。

間違いを言っている訳ではないが、少々言葉が足りない。
他の仲間達も、なんと説明をしようか言葉に詰まる。


「本当は超能力者さんの目が覚めるまで待つつもりだったのだけれど、ログが書き換わってしまう心配があって、眠っていた所をそのまま船に運んだのよ」

「そ、れで、島は…?」

「怪我人はいたけど、死者は出なかったそうよ」

「! そうですか…!」


ロビンの言葉に、エマはほっと息をついた。
しかし、自分が今ここにいると言う事は、今後はどうするつもりなのだろうか。
ジークはもう来ないとしても、他の海賊に狙われる可能性は十分にある。

そんなエマの心境を読んだのか、ロビンはクスリと笑って言葉を続けた。


「心配しなくても、あの島は海軍の警備が入る事になるそうよ。過去に襲われた事も兼ねて、海軍も放っておけなくなったのね」

「っ!じゃあ…!」

「あの島は、安全よ。島を襲った海賊達も、全員掴まったわ」


エマは顔を机に突っ伏したかと思うと、小さな声で「よかった」と呟いた。
ずず、っと鼻の啜る音が小さく響いて、チョッパーやウソップからはほろりと涙が落ちた。


「よかった、よかったなぁエマ…っ!」

「あ゙い……!あ゙りがとうございます…っ!」

「エマ、これ、村長さんから」

「? 私にですか?」


ナミの声に鼻をかみながら顔を上げれば、渡されたのは三つ折りにされた紙。
それが手紙だと分かれば「読んでみたら?」とナミに促される。

ゆっくりとそれを開く手はなぜか小さく震えていた。
綺麗な字で綴られている文字を、エマは視線だけを動かして追っていく。
皆は何も言わず、その様子を見守っていた。

ぽたり、ぽたりと落ちたそれに手紙の文字が滲んだ。

手紙には、謝罪の言葉と、たくさんの感謝の気持ちが記されてあった。
そして、この先の人生を自分のために使いなさい、と。
後悔のないように生きなさいと、そして今後の旅への激励の言葉があった。


「村長……みんな…っ」


この時、エマはやっと、抱えていた罪悪感から解放されたのであった。

読み終えた手紙を丁寧に畳んで、目尻をぐいっと拭った。
そんなエマの頭をポンポン、とルフィが撫でる。


「んでエマ、おれ達と冒険、するだろ?」


「強制かよ」とウソップの小さいツッコミが聞こえてきた。
エマは涙を拭い、笑って、そして口を開いた。


「……本当は、後悔してたんです。皆さんが出航して、寂しくて、また私は間違ったって。島を守らなきゃいけない事を理由にして、自分の気持ちに嘘をつきました」


エマの目は真っすぐにルフィを捉えた。


「ルフィさん、私を、麦わらの一味に入れてください!」


その瞬間、ワッと空気が一気に明るいものに変わった。


「ししし、おう!よろしくな!」

「やったー!エマが仲間になったぞ!」

「よろしくね、エマ!」

「また華やかになっちまうぜ〜〜〜〜!」


ワイワイ騒ぐ仲間達に、エマは改めて頭を下げる。


「エマです。今日からお世話になります!」

「サンジ!宴の用意だ!盛大にやるぞ〜〜〜〜!」

「よしきた船長!」

「お、久々に酒が飲めるな」

「いや、いつも飲んでるだろおめェは」


数日前までよくあった光景なのに、とても懐かしく感じる。
ふと、いつか島に上陸した赤髪の男の事を思い出した。
広い海で彼に会った事も、この一味に巡り会えたことも、奇跡としか言いようがない。
この出会いに深く深く感謝しながら、エマは生きていくのだろう。


「そうと決まればエマ!甲板に行くぞ!」

「あ、待ってルフィさ……っいだだだだ!」

「何回も言わせるなルフィ〜〜〜〜!!」

「てめェクソゴム!!肉抜きにすんぞ!!つーかまだ準備始めてもねェよ!」

「ご、ごめんなさい」

「ふ、ふふ…あはははは!」


彼等のやり取りに、エマが思わず声を出して笑う。
つられて皆も笑い、船内はあっという間に笑いに包まれた。

ルフィに手を引かれて甲板にやってくれば、その笑いに誘われたかのように、イルカの大群がメリー号に寄り添うように優雅に泳いでいる。
一頭のイルカが水しぶきを上げて大きく跳ねた。
その姿が、なぜかエマの目にはスローモーションに映る。


「……行ってきます」

「ん?何か言ったか?」

「いいえ、なんでもないです」


笑ってごまかすエマに、ルフィは首を傾げる。
それから思い出したかのように「あっ」と声を上げた。


「エマ、お前そのていねい〜〜な喋り方、やめろ」

「え?」

「なんかな〜……ん〜、イヤなんだよ。うん、そうだ、なんかイヤだ!」

「え、ええ…?」

「もう仲間だろ?年だってそんなに…ん?そういやエマ今いくつだ?」

「ええと、16です」

「16!?なんだよそれならおれと変わらないじゃねェか!な、もっと気楽にいこう!」

「そ、そんな急に言われても…私の事喋り方、もう癖みたいなものですし…あの、」

「よし、船長命令だ!」

「横暴だ!」


困り果てているエマのじっと腕を組んでルフィは見つめる。

こうなったルフィは梃子でも動かない、付き合いが短いエマでも、それは十分に理解していた。
ううん、と唸っていたエマも結局は根負けし、意を決したかのように、ルフィを見つめ返した。


「わ、わかった…えっと、ルフィ……」


たったそれだけの言葉なのに、エマの顔は火が出そうなほど紅く、熱い。
見つめ返していたはずの視線は徐々に下に下がって行き、恥ずかしさでぎゅっと目を瞑った。


「……やっぱ、」

「え……?」

「やっぱ、そっちの方がいいな!」


向けられた笑顔に大きく心臓が跳ねた。
それを合図にバクバクと胸がうるさい、そして苦しい。


「そ、れは…ずるいですよ……」

「あっ、また!ダメだぞ、直せ!」

「ずるいよ、ルフィ…」


きっと、この船のクルー達は、ルフィのこういう所に惹かれて船に乗ったのだ。
彼の太陽のような笑顔と温かさは、酷く安心する。
この人となら、この人のためならと思わさせる、そんな魅力があった。
エマも魅了された一人。

ルフィは海賊王になる男。
そして自分は、彼を海賊王にさせるために戦うのだ。


「ルフィ、私を誘ってくれてありがとう」


改めてお礼を言えば、ルフィは怪訝な表情を浮かべた。


「なんだそれ、お前。そんな事言うならな、おれだって、ありがとうだぞ!」

「え?」

「仲間になってくれてありがとう、エマ!」


もう一度太陽のような笑顔を向けられて、そんな事を言われてしまえば、今度こそ心臓が破裂しそうだった。
ぺたりと座り込んで顔を両手で覆えば、心配そうなルフィの声が聞こえた。

そんな彼の優しさが、泣きそうなほど、嬉しかった。