Difference in ability



「主犯はお前なのか?黙ってないで答えろ」


男の迫力に、思わず頷いてしまうそうになる。
しかしここで認めてしまえば、すべて水の泡だ。

エマは目の前の男と自分との実力差を対峙した瞬間に分かってしまった。
この男には勝てない、ましてやフィオナのように不意打ちも通じるかわからない。


「……違うわ、」

「ほう…じゃあその下に散らばってる服はなんだ?」

「さぁ、誰かの落し物じゃないの?」

「意地でも認めねェってか?あんまりイラつかせるな」


おれは今機嫌が悪ィんだ――


ブワリと身体中から、汗が噴き出た。

まずい、逃げろと第六感が自身に訴える。
踵を返し、一目散に逃げ出した、勝ち目がまるでない。


"ROOM"ルーム


エマの周りを薄い膜が取り囲む。
思わず立ち止まり、ローを振り返った。


「"シャンブルズ"」


ローが何かを呟いた瞬間、目の前にそのローが現れた。


「なっ…!」


否、ローは一歩も動いていない、エマがローの目の前に移動したのだ。
代わりにエマが居た場所には、小さな石ころがぽとりと落ちた。


「逃げるな、面倒くせェ」


ローが長い刀を抜いて、そして、薙いだ。
切るには刀が届かない少し空いた距離、しかしその太刀筋に入ってはいけないと本能が察した。


「っ!」

「チッ、避けやがったか」


間一髪で身をかがめ、それを交わす。


「……嘘でしょ、」


嫌な予感が的中した。
ドンッ!と大きな音が聞こえたかと思うと、後ろにあった大岩がパックリと切れていた。


「わッ、」


間髪入れずに次の攻撃がエマを襲う。
二度目の攻撃は避けきれず、右腕を切り落とされてしまい鞄の中身もぶちまけてしまった。


「……どういう事…!?」


痛みを感じない、それどころか切り口からは血の一滴も出てこない。
なぜ、と考える暇もなくローは次々とエマを攻撃する。

防戦一方では逃げる事も出来ない、エマは一か八かローに左手をぐっと伸ばした。
その手がギリギリ男に触れた所で、今度は足が切り落とされた。

同じく痛みもなく血も出ないが、身体を支えるものがなくなれば倒れてしまうのは必然だ。


「…ッ、"共有"シェア"能力"アビリティ!!」


絶体絶命の中、エマは思い切り叫んだ。

そして続ける。


"ROOM"ルーム


その途端、ローの時と同じように薄い膜が男達を覆った。


「え、これって船長の…!?」

「どうなってんだよ!?」

「……さて、どういう能力だ…?」


戸惑うクルー達とは裏腹に、ローは楽しそうに口角を上げ、エマの次の行動を待った。

エマはチラリと少し遠くに見える石を確信し、唱えた。


「"シャンブルズ"」


パッと視界が変わり、背後に男達の姿を確認した。


「できた…!」


成功したのだと分かると、一緒に入れ替えておいた自分の身体の一部を手に取った。


「予想通り、入れ替えられた……というか、これちゃんと治るんでしょうね…!?」


ロー達がこっちに来る前に、どうにかして逃げなければ。
急いで脚を切り口にくっつけてみれば、それは跡も残らずに元に戻った。


「戻った!」


右腕も同じ様に元に戻り、急いで鞄の中身を詰めて走り出す。
よし、と走り出した、その時だった。


――バンッ


「……えっ………?」


腹部に感じた強い衝撃で、力が抜け膝をついた。
その部分を手で触れてみれば、べったりと自身の血液が手のひらを赤く染めた。

撃たれたと分かったのは、二発目が腕を突き破った時だった。

そこから数発の銃声が響き渡った。
崩れ落ちるように倒れたエマの目に、誰かの靴が写った。

残った力で顔を持ち上げれば霞んだ視界に、白い帽子を被った男が見える。


「お前……」


ローは少し驚いたように声を出した。


(ああ、そうか……)


"死の外科医"と呼ばれる彼ならば、もしかしたら知っているのかもしれない。


「…ころし、かたは…しってる、の……?」


絞り出した声は霞んでいて、上手く伝わっただろうか。


「あァ」


短い返事だった。
エマは自分の生の終わりを覚悟した。

左胸に強い衝撃を受けたところで、エマの視界は暗転した。