調査開始



あの堅い警備の施設に潜入するにはどうしたらいいのだろうか。
街の人ごみの中を一人歩き、考える。

入口には海兵、そして映像電伝虫。
それを掻い潜って無事に中に入り込めたとしても、建物内にも相当の数の海兵が徘徊している。
見つかってしまえば即ゲームオーバーだ。

そして一番の問題は、目的の資料の在り処だ。
あの広い施設の中、虱潰しで探すにはさすがに人手も時間も足りない。


「さて、どうしたものか……」


辺りを目線だけ動かしてみれば、レストランのテラスに男の海兵が二人座っている。
今はちょうどお昼時、店内は程よく込み合っている。

エマは小さく笑みを浮かべ、しっかり留めてあった服のボタンを二つほど外し、店内へと足を運んだ。


「あの、すいません」

「ん?」

「席が空いてなくて……よろしければご一緒してもいいですか?」


相手の顔を覗く込むように目を合わせ、胸が協調するように腕で少し寄せてみた。
期待通り、男達は鼻の下を伸ばして、どうぞどうぞと席を開けた。

エマは声には出さず、心の中で「ちょろいな」と呟いた。


「すごく賑わってますね。さすが大きな島だなぁ」

「お姉さんこの島の人じゃないの?観光?」

「ええ、あちこち旅してるんです」

「へぇ〜そうなんだ、楽しそうだね」

「お兄さん方は休憩中ですか?勤務ご苦労様です」


にこにこと愛想笑いを浮かべれば、男達は気分良さそうにこの島の事をペラペラと話し始める。
大方どうでもいい話ばかりだったが、少しずつ話を誘導すれば施設について話し始めた。


「俺はこう見えても、施設の最重要資料の警備を任されたことがあるんだぜ!」

「なーに言ってんだ。上司の都合で一回務めただけだろうが」

「うっせ!一回だろうが務めたもんは務めたんだよ!」

「あの、最重要資料って、たとえばどんなものが…?」


エマがおずおずと言葉にすれば、二人はきょとんと顔を向けてきた。


「あ、ごめんなさい、つい気になっちゃって。そんな大事な事、話せるわけないですよね」

「そうなんだよね、ごめんな〜」

「いえ、お気になさらず。情報を漏洩しないよう、常に心がけているんですよね」


「素晴らしいですね」と微笑んで男の手をぎゅっと握る。
男は嫌な顔一つせずデレデレと鼻の下を伸ばしていた。

そして、エマはこのチャンスを逃さない。
頭の中で能力を発動する言葉を唱えた。
思ってもいない相手を褒める言葉が次々と口から出る中、脳内には男の思い浮かべていた施設内の映像が流れ込んでくる。

エマは、"シェアシェアの実"の能力者である。

この能力は触れた相手の記憶や精神、さらに傷や痛みまで"共有"できる能力だ。
エマは男の手に触れ、男の施設についての記憶を自分に共有した。

直前にその話をしていた事により、記憶はより鮮明に思い出されていた。


「お前、そろそろ時間」

「あ、ああ、そうだな。それじゃ、俺達は戻るよ」

「はい、頑張ってくださいね!」


握っていた手をパッと離し、とびっきりの笑顔を向けて手を振った。

怪しまれている様子は、ない。
男達の姿が見えなくなると、エマはふと息を吐いて呟いた。


"解除"アンシェア


パチパチと数回瞬きをして、頭の中を整理する。
今の男からの情報で分かった事は三つ。

一つ、最重要資料が保管されている部屋。
二つ、その部屋に入るには専用のカードキーが必要という事。
三つ、そのカードキーを所持している、海軍大佐の顔と名前。


「上出来」


エマは満足気に笑うと、すっかり冷めてしまったコーヒーに口を付けた。


「あと必要なのは……」


怪しまれないように、服装は海軍の制服に着替えるべきだ。
それは後々そこら辺の海兵の着ているのを拝借するとして、問題はカードキー。
これは一戦交えるのを避けては通れないだろう。
間違いなく時間は喰うだろうし、少しでも相手の戦力を減らしたい。
そう考えていると、人ごみの中に明らかに一般人とは違う一行が目の前を通る。


「あれは……」


二足歩行する白熊に、数人の男達を引き攣れて先頭を歩く細見の男。
話題の海賊、トラファルガー・ローを見つけたエマは、ニヤリと笑みを浮かべた。