傾向



「アイツが来てからだろ?」
「マリアだって、あいつを庇って行方不明になったって…」
「厄病神…」
人気もまばらなヒマラヤ支部、広場。
任務を終え、報告も済ましてこれからどうしようかと、気の向くまま歩き出した結果がこれであった。
んー、否定しきれない…
ニヴは一人苦笑いを浮かべる。
他の支部と比べ、アラガミの出現が比較的少ないここでは、人員も最低限しか配置されていない。
したがって、支部の大きさに比べて人数が少なくなっているわけで。
人が少なくなれば、比例して静かになっていくもので。
聞くわけでもないが、話声が耳に入って来たのである。
そもそも、件の彼らに隠す気が合ったかどうかは定かではないのだが。
「よぉ!」
「お、ドロシーだぁ」
そんな中、ヒマラヤ支部で販売業を営んでいるドロシーに声をかけられた。
「買い物でもしていかないかい?」
ドロシーは神機使いにとって必需品である回復錠や素材などを取り扱っているため、所謂お得意様である。
ただ今は、買い物に来たわけではない。
「ありがとー。でも、きょーはいいや〜」
「きょ、今日は気分が良いから!安くしとくよ!」
口調はやんわりと、しかしはっきりと断ったはずだったが、なぜか食い下がるドロシー。
常ならば、こんなたどたどしい売り込みはしないはず。
何故かと思考を巡らせば、はたりと気が付き、笑った。
「あはは、気を使ってくれてるの〜?」
図星をつかれたのか、ドロシーはピクリと肩を揺らした。
「うっ……。そ、そうさ!一応この支部のあねごだから、気になるんだよ」
バツが悪そうに視線を逸らしたかと思えば、瞬時に開き直って胸を張った。
普段なら、あねごと呼ばれるのを気にしているのに。
それを棚に上げ、他者の心配をしてくれている。
そういう所が、彼女があねごと呼ばれる一因だろうか。
「いーよ、言われ慣れてるし」
そんな彼女の態度に笑みを深めつつ、さらりと返す。
「それ…、なんの解決にもなってないから」
すると、じとっとした目つきが戻ってきた。
むすっとした顔つきは、年相応に見える。
「ごめん、ごめ〜ん。でもほらぁ、ぼくっていちおー所属クレイドルじゃぁん?」
ニヴは自らを指差す。
「結構あっちへこっちへ、してるんだよねぇ」
東の果て、その昔国が機能していたころは日本と呼ばれていた地域。
そこにある支部が発足した、独立支援部隊クレイドル。
その活動は多岐にわたる。
外部居住区に入ることが叶わなかった人々に手を差し伸べる者。
新種のアラガミを積極的に討伐し、その対策や対応にあたる者。
そして現在のニヴのように、人手や戦力が足りない支部に力を貸す者。
「それも、支部のせんきょーが悪くなりそーだって時にさ」
常にモニタリングされているアラガミ増加率やその傾向、また神機使い達の状況。
支部に居る大勢の人々を守るためだ。
対策は早めに打たれるべきである。
したがって、現場のメンバーが疲弊する前に、クレイドルに声がかかる。
「だからさぁ、毎回おれが来たころと、同じくらーいの時期に、しんどくなっちゃうわけなのぉ」
故に、現場で対応に当たっているゴッドイーターやその職員にとっては、ニヴが来たからアラガミが増加したように感じるということだ。
現在の、ヒマラヤのように。
「でも今回は〜、否定しきれない部分も、ある、かなぁ…」
彼らが話していた内容の一部。
ヒマラヤに来た直後に起こった出来事。
ニヴが歯切れ悪く吐き出した言葉と比例するように、ドロシーも表情を曇らせる。
「と、いうわけでぇ」
その雰囲気を断ち切るように、ニヴはパンッと両手を合わせた。
「あねごぉ〜、癒してぇ〜!」
「わっ!…全く、素直にそう言いな」
突然抱きついたニヴに、驚きながらも受け止めるドロシー。
その瞳には優しい光が灯っていた。




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