厭忌



鼓膜を震わす、不協和音。
金属が擦れるような、高音。
例えるなら、悲痛に蠢くような。
子供が泣いているような。
足を向けた先には、空虚の中の一つの影。
樹木かと距離を詰めれば、伸びた枝のように見えたのは刃。
止めどなく刃が伸び、重みに耐えきれず落ちる。
よく見た、見慣れた刃の形状をしている。
背にまとった、牙装のような。
刃の枝の中に別の形状も見える。
鋭さのない、丸く質量を持ったそれ。
蠢いた中にできた空洞。
音源はここだ。
口のように開き、奇声を上げる。
奇声の先に目のような窪みができる。
たがそれは、顔を形成する前に地へ落ちた。
蠢く肉片が、悲痛に叫んでいる。
歩みを止める。
ここまで近づけば、全容は伺える。
木の幹にあたる部分には、人の身体がある。
考え込むように、ない頬をついている。
腹には紫色の眼球。
そこから垂れ下がる、青い血。
いやに、見たことのある色だ。
植物のような形状だが、堕鬼なのだろうか。
動かない堕鬼とは遭遇したこともないが。
動かないふりをしているだけなのだろうか。
攻撃のチャンスを窺われているのだろうか。
こんなにも、嫌悪感を覚えるのは何故だろうか。
とにかく堕鬼ならば、やられる前に倒してしまえば害はない。
この距離なら、届く。
牙装を展開する。
解けた浄化マスクが、顔を這い形を変える。
仮面へと。
マントのように棚引いていた牙装も解け、絡み付き、地へと突き刺さる。
地中を潜り、牙装を動かす。
奴の下へと。
敵の攻撃が来ないとも限らない。
植物のようなそれから注意を逸らさず、這わせた刹那。
浄化マスクが四散した。
「!?」
それだけではない、展開していた牙装もだ。
地面が震える。
咄嗟に後ろに飛べば、生えた刃。
まさに今自分が展開しようとしていたような。
避けた先にもまた生えるそれを何度も交わす。
2、3度かわし、ようやく息をつく。
追撃が止んだ。
何故。
この距離は、射程外だというのか。
顔に手を翳し、浄化マスクを形成する。
片眼しか見えないその下で、苦虫を噛み潰す。
射程外は、自分と同じだ。
遠方攻撃が通じないというならば、取るべき策は一つだ。
手のひらに光が集まる。
一つの形状を示す。
大槌へと。
重く空気を割くそれを振るい、肩へ担ぐ。
昔、お節介な上司に止められた武器。
地を蹴った。



[ 24/59 ]

[*prev] [next#]
[目次]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -