来者



「こちら、メラクリーノさんに渡していただけますか?」
慌ただしく人の行き交う病棟のカウンター。
色味のないそこに、咲き誇る元気な色の花々。
アラガミによって土地を食い荒らされた世界。
生花を見る機会すら減ったにも関わらず、少年は両手にバスケットを抱えてやってきた。
少年は、見舞いだろうか。
「こんな綺麗なお花…、今なら面会可能時間ですから、直接手渡されたら…」
「イーギスさん、いらしてたんですね」
遮るように重ねられた言葉。
振り返れば看護師長がこちらへ駆け寄って来ていた。
「お世話になっています」
丁寧に頭を下げる少年。
師長との知り合いだったのだろうか。
その場を師長に任せ、一礼をして下がる。
「すみません、また父が迷惑をかけたみたいで」
書類を整理しながら、会話が耳に入る。
メラクリーノと言っていたから、あの患者のことであろう。
患者とはまだ直接接したことはないが、息子がいたとは知らなかった。
「いいえ、私達の対応に落ち度がありました。彼を錯乱させてしまいました。申し訳ありません」
先日彼が病棟から抜け出そうとしたことがあった。
その話だろうか。
「とんでもない!謝らないでください。いつも見てくださってるだけでありがたいですよ」
病院内で事は収まったため大事には至らなかったが、下手に外に出られていたら危険だった。
監視を強める必要があるかと検討したのも記憶に新しい。
「これ……お願いします」
「受け取りました。こちら…、未来からにしますか?」
少年が抱えたアレンジメントを師長に手渡す。
生花の匂いがほんのりと漂う。
「……いえ、お姉さんからでお願いします」
礼をして去っていた少年の腕には、黒い腕輪が嵌められていた。



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