案件



意識が浮上する。
眠ってしまっていたのか。
何を、していたのだったか。
そうだ、確か、アラガミに囲まれて…。
息を飲む。
反射的に飛び起きた身体。
遅れてやってくる痛み。
思わず腹部を押さえる。
同時に視界を巡らす。
白い壁、白いベッド、腕に繋がれた点滴。
よく身体を見れば、所々に包帯が巻かれていた。
ここは病室だろうか。
見たことのない景色だ。
そもそも自分は屋外に居たはずである。
それが何故ここにいるのか。
記憶を辿ろうと、集中しようとした時、足音が聞こえた。
反射的にその方向を向けば、開かれた扉。
ゆっくりと開かれた先に、昔見た面影があった。
視線がかち合う。
「……おはよう」
事もなげに、声がかかった。
「おはよう、ございます…?」
条件反射のように返すそれ。
以降を紡がれず、沈黙が落ちる。
部屋に入ってきた彼はそれ以上近づく様子もなく、扉横の壁に背を預けた。
音源の無い部屋。
視線だけを感じる。
状況は変わらず不明だった。
「あの…、ノジアさん、でいらっしゃいますか」
「…覚えていたか」
思い当たった名前を口にしてみる。
昔の記憶だ。
数度顔を見た覚えがある。
「勿論です。旧フェンリル本部、第十四部隊エリナ隊長からお話を伺っております」
口にして、懐かしさが滲み出る。
灰域発生以前の、フェンリル本部に所属していた頃の記憶。
随分と遠い記憶になってしまった。
「懐かしいな」
淡々と変えされた声に、気を引き締める。
「…質問をしても、宜しいでしょうか」
しっかりと彼を見つめて問う。
再び重なった視線は、次はノジアが落としたことで外れた。
言葉を待つ。
返答はない。
答えは、そういう事だろうか。
「…差し出がましいことをしました」
「何がだ」
「えっ」
漏れ出た声を慌てて押さえる。
自分は何か変な発言をしてしまっただろうか。
発言を振り返る。
思い当たる節はない。
分からない方が問題なのだろうか。
いや、分からないままにしておく方が難ありか。
「それは、どういう…あっ、いえ……」
思わず疑問が溢れ出そうとして留める。
やり場のない感情が、地に落ちる。
視界に入った清潔なシーツ。
そもそも何故自分はここにいるのか。
ここはどこなのか。
治療をしてくれたのだろうか。
してくれたとしたのなら、相応の返礼をしなければ。
思想を張り巡らせ、最適解を探る。
しかし妙案は思い付かない。
「落ち着け」
「はっ、はいっ!」
思考の沼から即座に戻る。
そうだ、まずは冷静にならなければならない。
頭の中を整理しようと息を吸う。
ゆっくりと息を吐き出し、まずは現状把握から始めるべきかと考えている間に。
「また来る」
ノジアは踵を返し、立ち去った。


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