遺失

ヒトの気配などない、掠れた街の残骸。
動く影といえば、喰い尽くした捕喰者しかいない。
その隙間を縫うように、小さな存在がいた。
矮小な手で瓦礫を漁る。
残骸でも、残された骸だ。
少しだけ、何か少しだけ、お零れがあるかもしれない。
小さな影は、必死で探す。
しかし。
突然地が震える。
影は反射的に背筋を伸ばした。
響く、足音。
ゆっくりと近づく、震え。
すでに捕捉されているのは明白であった。
出方を、伺われている。
壁の外に出た時点で覚悟はしていた。
ただ、そのリスクを飲んでまで、手に入れたいものがあった。
手に入れられなければ、意味はないが。
拳を握る。
打開策は、ない。
叩きつける轟音。
新手かと身を硬く、目を瞑れば。
「…立てますか?」
かけられたのは言葉だった。
驚いて見上げる。
そこには差し伸べられた手。
人が、居た。
「黒い、腕輪…?」
ここにいるということは、神機使いの確率が高い。
しかし、彼の腕についているのは見慣れた赤色ではなかった。
「フェンリル極致化技術開発局…、覚えて…おいででしょうか?」
「え……?」
すらすらと流れた音は、何という意味だったか。
意味を確認する前に、目の前の彼は苦笑した。
「すみません。とりあえず、この場は危険です。避難しましょう」
向けられた手が腕を掴む。
かるく、身体が立ち上がった。
彼の後ろを追う。
瓦礫の奥に、抉れた床と、霧散する黒い塵。
後ろ姿の片手には、握られた鈍器。
間違いない。
神機使いだ。
だとしても、何故、今ここに。
人目を盗んで、残飯を漁りに来たのに。
汚れた自分の手の平。
名も知らぬ彼は、どんな手をしているのだろう。
「あの…、あなたは何で、外に居たんですか…?」
溢れた言葉。
彼は振り向いて、悲しそうに笑った。
「……少し、探し物を」



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