喰事

風の音。
吹きさらしの大地。
見渡す限りの渇いた地面。
そこに、動く影が一つ。
「わ〜、賑やかなところだねぇ」
その場に不釣り合いな、呑気で間延びした声。
珍しそうに視線を巡らせる。
『誰も居ませんよ?』
何処からともなく、伝わる声。
人影は、依然一つだ。
「ハハッ、そうだねぇ。誰も居な〜い」
笑った人影が、視線を前に戻す。
ようやく一点に戻ったようだ。
風に乗って舞うオラクル細胞。
灰色の髪が、艶めく。
「ねーリマリー、灰域っておいし〜い?」
灰のように散り、蔓延するそれ。
灰域と認定されたここは、アラガミの腹の中にでもいるようなものだ。
ピリピリと、空気が震える。
『珍味では、ありますね』
「じゃー、あいつはぁ?」
靴底と石が地を削る。
捉えたのは四足の獣。
肉が千切れる音が反響している。
『とても、美味しそうです』
弾ませる語尾。
呼応して、ヒトも口角を吊り上げた。
「そう…、なら、味見してみよっかぁ?」



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