生きる



沈黙する街。
いや、もはや街とすら呼べないのか。
廃墟に重く轟く、恐怖の足音。
灰域濃度の影響か、通信から聞こえるのはノイズのみ。
肌に焼け付くような緊張感。
1人なら、どうとでもなったかもしれないが、隣には不安そうに俯く子供。
即死不回避のアラガミとは、よく言ったものである。
探るようにゆっくりと近づく気配。
しかし、こちらには時間がない。
待っていれば死ぬ。
それならば、一か八か。
そっと、隣の子供の肩を叩く。
騒がないように口元で指を立てた。
「…行くぞ、離すな」
片腕にしっかりと軽い身体を抱く。
物陰から視線だけを巡らす。
四足の獣が見える。
見覚えのある相手だ。
その奥に見えるのは、穴の空いた家屋。
その重心は。
銃口を向ける。
開戦の狼煙が上がった。
即座に反応した獣が吠える。
もう一発、今度は真横に放つ。
獣と同時に地を蹴った。
視線で捕らえられたのは、それが最後。
耳に届く轟音。
先刻までいた建物が崩れ始める。
降り注ぐ瓦礫。
獣の咆哮。
派手な土煙。
目の前の家屋も瓦礫と化し始めた。
迷いなく進む。
後ろから風を切る音が聞こえる。
落ちる家財を避け、前へ。
家財に突っ込んだ獣。
散る破片。
暴れる風に煽られて。
潰れ切る屋内から抜け出した。
その遥か後方で、獣の怒号が聞こえる。
脚は止めず、走り続ける。
轟音が止まり、腕の中の少年がもぞもぞと顔を出した。
状況を確認するように動く視線。
「…う、腕っ!?」
見開かれた少年の瞳は、彼を抱える人物へと向けられる。
かたや相手は無関心に返した。
「…あぁ、義手だ。気にするな」
破片が刺さった腕の下に覗く機械。
そんなもの物ともせず灰域の中を駆ける。




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