累加



ペンが揺れた。
椅子から伝わる地面の振動。
「どこに行かれるのでしょうか?」
書類から目を離さず、声をかける。
稟議書の字面をなぞる。
「クリサンセマム」
素っ気なく返ってきた答え。
あまりにも簡潔に、意図が伝わった。
「灰域種討伐…、ついに来ましたね」
即死不回避とされた脅威が、ついに打たれたという。
その一報は瞬く間に広まった。
この、ミナトにも。
「留守を頼む」
布が瞬く音が聞こえる。
「それこそ私が行きますけど?」
紙束をめくり、文字を追う。
すると、呆れたような声が聞こえた。
「……分かってて言ってるだろう」
書類越しにほくそ笑む。
「えぇ、行ってらっしゃいませ?」
それは届いたのか届いていないのか。
そもそも届ける気も、受け取る気もなかったのか。
届かずとも、届くのか。
扉が閉まる音がした。



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