仮初




オペレーターの切羽詰まった声が聞こえる。
どうやらこの場が120秒後に崩れるそうだ。
「あれ、そーなのぉ。でもここでやらないとぉ、アイツ、逃がしちゃーうよ」
眼前に対峙する、女体に張り付いた奇怪な四足。
ヴィーナスだ。
群れの中心にいたこのアラガミが、最近の被害の原因だろう。
他の神機使い達の手を借り、ようやくここまでたどり着いたのだ。
「ん〜。ここで逃がしたらぁ、それこそまた被害がぁ…」
ヴィーナスがこちらに気付く。
不敵に微笑む女体。
この場は崩れるだろうが、アラガミはその程度では倒れない。
精々数時間程度の足止めが出来るだけである。
この機会を逃がせば、また敵位置の捕捉から始まり、そして再び大軍を引き連れたヴィーナスを一気に叩く必要が出てくるかもしれない。
それでも、ニヴの身を案じて退避を求めるオペレーター。
ヴィーナスがこちらに向き直る。
「あぁ。そっかぁ」
神機を構える。
「倒せばいーんだね」
オペレーターの焦った声が聞こえる。
ヴィーナスの背部から、生えたミサイルポット。
「だいじょーぶ。伊達に……」
地を蹴る。
頭上を抜けるミサイル。
「"泡沫夢幻"なんて、言われてなーいよ」
次いで破裂音。
煙が視界を覆う前に。
ヴィーナスが煩わしそうに針を振るう。
それに合わせて。
針に跳び乗り、蹴る。
真下に見えるヴィーナス。
照準が、女体をとらえる。
爆風が取り囲む。
反動に煽られ、重力に逆らう。
神機を刃に切り変えて。
口を開く剣。
噴煙を切り裂いた。
見えたのは、肉の剥がれかけた女体。
引きちぎられた残響。
粘着に響く咀嚼音。
崩れていく巨体。
それを認めるより先に、走り出す。
遠くから轟音が聞こえてくる。
どうやら、間に合ったようだ。
「おっけー、コアは回収したよぉ。ヘリの手配お願いねぇ」
大量の土砂が地面を揺らし始める。
それらが届く前にこの場から離脱しなければならないが、ニヴはのんきに報告を始めた。
「あれぇ、きーてる?」
再度問えば、間を持って返答が返ってきた。
「あはは、ごめんごめ〜ん。素材は回収できないもんねぇ」
オペレーターの怒ったような、安堵したような声が聞こえた。




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