奔放




「イーギス、居るか?」
控えめに鳴るノックの音。
扉の奥からは意気揚々とした返事が聞こえた。
どうやら開いているらしい。
「…入るぞ。」
一歩踏み出して扉を開く。
視界に入ってきたのは、
「ハァイ、こんにちは!呼ばれて飛び出てイーギスでっす!」
「帰る。」
「わぁぁ、すんません!調子乗りました!!」
とてつもない笑顔のイーギスがピースサインと共に眼前に君臨していた。
すぐさま踵を返せば、慌てたように頭を下げる。
「…何してんだ。」
溜息と共に向き直る。
イーギスはおずおずと顔を上げた。
「いや〜、驚くかなって思いまして。」
「ハァ…」
再度溜息が出た。
「んで、どうしたんすか?」
部屋へと促され、中へ入る。
「お前、神機メンテナンス依頼票提出したか?」
「あぁ〜、ちょっと待ってください。」
勧められたソファヘ座れば、机に並べられた書類。
その中の一部を、イーギスはパラパラとめくった。
「…珍しくデスクワークしてたのか?」
「珍しくってなんすか、俺これでも真面目なんで、これくらい当然すよ?」
「言ってろ。」
イーギスは茶化すように笑い、次の書類へと手を伸ばす。
山積みというほどではないが、散乱していく紙。
ふと目に入った真っ白な報告書。
どうやら先日行った討伐任務についてのようだ。
しかしその任務、かなり前であったような。
「…っておい、この報告書提出期限切れてるぞ。」
「あぁ、大丈夫ですよ。手は打ってあります。」
探す手を止めず、平然と言う。
ギルバートが疑問を口にすれば、ニヤリと答えが返ってきた。
「つまり、偽造工作はバッチリってことっすわ。あとでしれっと提出しますんで大丈夫です。」
人差し指を立て、左右に振る。
まるでイタズラが成功した子供のようだ。
「…お前、そういう所だけ頭回るよな。」
「褒められた〜。照れます!」
「褒めてねぇから。」
イーギスがわざとらしく頭を掻いたので、ギルバートは腕を組んでみせる。
確かに隊長であるイーギスの方が多忙だろうが、これではブラッド隊は大丈夫なのかと心配になってくる。
しかもこの口ぶりでは、何回か偽造工作をしていると思われる。
あくまで憶測だが。
「ハハッ、生きていくための知恵ですよ?先輩も始末書書きたくなかったら、俺を頼ることですね。」
胸を張り、堂々と言い放った。
「生憎、そんな機会はないからな。」
「あ、じゃあ作ってあげましょうか?」
「遠慮する。」
「奥ゆかしいっすね〜。んで、ありましたメンテ依頼票。」
ひらひらと揺れる一枚の紙。
神機メンテナンス依頼票と刷られたそれは、あとはサインするのみだ。
「やっぱり提出してなかったな…。」
イーギスはサラサラと記入していく。
「今から出しますわ。つか、どうしたんすか?頼まれました?」
「あぁ、いや。お前の神機、強化しようと思ってな。」
ふとしたことから始まった、神機のチューニング。
強化する前に、一度メンテナンスを行う必要があるのだ。
イーギスはパッ顔をあげ、
「おぉ、待ってました!楽しみです!見に行っていいですか!?」
ずいずいと、近づいてくる。
「別に、俺一人でやるわけじゃないぞ。」
何となしに視線を逸らせば、回り込んで視界に入られた。
楽しそうな表情が見える。
「いいんすよ、先輩がいじってるとこ見たいだけです。」
「普通にしてるだけだが…。」
「良し!じゃあ早速、許可貰いに行きましょ!」
「ちょっと待て。せめてコレも持っていけ。」
すぐさま動こうとするイーギスを慌てて制する。
今しがた書き終えたメンテランス依頼票を手渡せば、
「おぉ、さすがっすわ。」
思い出したように受け取った。
ギルバートが机に散乱する資料を一瞥する。
「お前、この書類いいのか?」
「思い立ったが吉日!善は急げ!旨い物は宵に食え!極東の古いことわざです!!」
見事なことわざトリプルコンボをかました。
もはや呆れを通り越して感心するしかない。
「何で知ってんだ…。」
「というわけで、行きますよ先輩!」
行き先を指さし、足早に部屋を後にするイーギスに、慌ててついて行った。





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