不変




ガシャンと後ろで扉が閉まる音がした。
薄暗く、湿った、本来なら嫌悪すべき場所。
「おぉ、ここが懲罰房っすか、どれどれ…?」
しかし、そんなものを全く無視するかのような声が響いた。
子供のように、辺りをキョロキョロと見回し、備え付けられたベッドに近づく。
簡易的な、無機質なベッドだ。
それを手の平で押してみる。
「…ベッド硬くないですかこれ!?」
再度グイグイと押す。
しかし、ベッドはビクともせず、形を変えなかった。
「えー…、身体痛めますってこれ。」
苦笑を浮かべつつ、独りごちる。
他にも何かないかと視線を上げれば、小さな個室があった。
とりあえず扉を開けてみる。
「あ、便所。」
そうだな、トイレがないと困るな、と一人納得しつつ、ベッドに腰掛ける。
「つか、なんもないんすね〜。」
誰に話しかけるでもなく、呟く。
「まぁ、タダでメシ食えるなら文句言えんかな…」
頭を掻きつつ、改めて室内を見渡す。
「いや、メシがうまいかどうかが問題ですよ。」
灰色の壁。
ベッド。
扉。
「デザートとかつくのかな…」
零れた言葉は、返ってこない。
無機質な室内。
沈黙がとどまる。
「……やっべ、暇じゃん。」
ハッと今更のごとく顔を上げた。
「どうっすかな…。」
ぽりぽりと頭を掻く。
「看守さんとかいらっしゃるかな…?話相手に…?」
入ってきた扉を振り返る。
扉の上部に窓らしきものがある。
あれを開ければ外が見えるはず。
しかし。
「え、あれ?まじすか、これこっち側からは開けられないんすか!?…いや、待て。そんな馬鹿な…!」
押してみたり、揺らしてみたり、色々と試してみるが、全く動く気配がない。
そうしていると、
「…すみません。」
「ふぁい!!すんません!騒いですんませんでしたぁ!!」
突然の誰かの声に、思わず両手を上げて降参のポーズをとって、全力で頭を下げる。
もちろん、扉は開いていないので見えないのだが。
「あぁ、違います!私は…」
「へ、あれ?看守さんじゃないんですか?」
顔を上げる。
どこかで聞いたことのある声だ。
「はい。」
落ち着いた声。
この声は確か、いつも世話を焼いてくれる職員の声だ。
初めてフライアに来た時から、気にかけてもらっている。
「少し言伝に。シエルさん、怪我もなく、黒蜘病の心配もないそうです。」
「まじすか!良かった……。」
思わず息が抜ける。
任務から帰還して、シエルとは検査のため別れて、それから命令違反で処罰されて今に至る。
すぐに連れて来られたため、検査結果まで聞けなかった。
「はい。ありがとうございました。」
「へ?何でですか?」
首を傾げる。
礼を言うべきことはしてもらえども、言われるようなことはしていない。
「貴方の機転が、彼女を救ったのでしょう?」
扉越しの穏やかな声。
人柄がうかがえる。
羨ましいほどに。
「いやもう、ホント必死だったんで。そんな格好良いもんじゃねぇっすわ。それより!」
語尾を強めて、一旦区切る。
「こっちこそ、伝えてくれてありがとうございました。」
そうだ。
本来ならこちらがお礼を言うべきなのだ。
わざわざ伝えに来てくれたのだから。
先を越されてしまった。
「いえ、それ程のことはしておりません。」
職員はいつもの通り、穏やかな口調である。
扉の向こうで笑っているのだろうか。
それに応えるように、イーギスもニヤリと笑う。
「…ところで、今ヒマですか?」
「え…?特に予定はありませんが…」
「じゃ、ちょっと付き合ってくださいよ。ここヒマなんすよ〜。」
「はは…。貴方は相変わらずですね。」
扉越しに、笑い声が届いた。






――――――


あとがき

まさかのフライア職員さんでした。
職員さんとの話は書きたかったので満足しています。
フライア職員さん格好良いです。
個人的には、黒髪の方が好みです。




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