差異




荒れ果てた街に、暴れる音。
またここでも、荒ぶる神と神を喰らう者達の死闘が繰り広げられていた。
「ッ!」
ヴァジュラの爪が薙ぐ。
すかさずイーギスは装甲を広げるが、受け止めきれずに足が浮いた。
そのまま瓦礫に突っ込んで行く。
瓦礫の崩れる音。
「イーギス!」
ギルバートの声が響く。
瓦礫の中で、空気を割くように神機が振るわれた。
同時に周囲にあった瓦礫も弾け飛ぶ。
「……いってぇなぁ、おい?」
低く、押し殺したように紡がれた声。
イーギスは顔を上げた。
額から垂れる赤色。
そこに表情は無い。
槍型の神機が開き、その中から鋭い刃が現れる。
イーギスが地を蹴った瞬間。
槍から赤黒いものが溢れ出し、その勢いに任せて宙を滑る。
目の前には先程のヴァジュラの前足。
強引に肉を裂き、神機を突き刺す。
ヴァジュラの悲鳴が上がる。
けれどそれを全く無視し、そのまま神機を真横に引き裂いた。
「…ウッゼェ。」
鮮血が弾け飛ぶ。
ぼそりと呟かれたそれは、ヴァジュラの悲鳴にかき消された。
同時に、切断された片足も宙を舞う。
ぐらりとバランスを崩すヴァジュラ。
「イーギス!畳み掛けるぞ!」
「…了解っすわ。」
ギルバートとイーギスがまだ足掻くヴァジュラを追い詰める中、その少し後ろで、アリサは動きを止めた。
「え…?」
困惑した表情が伺える。
ブラッドの隊員と任務をこなすのは初めてだが、原因はそれではない。
「あーあ。スイッチ入っちゃった。」
併せて、隣にいたナナも神機を下ろした。
視線はヴァジュラと退治するイーギスに注がれている。
「スイッチ…、ですか?」
アリサがナナに視点を合わせれば、
「うん、よくなるんです。」
事も無げに、ナナは頷いた。
神機を振るうイーギス。
戦闘が始まった直後は、絶叫しながらアラガミの攻撃を避けていたはずだった。
しかし、今は違う。
アラガミの攻撃を紙一重に避け、反撃もくらわす。
その顔には表情が無い。
普段アナグラで見かける時はいつでも笑っていたのだが。
「大丈夫!あぁなったイーギスは強いですよ!」
ナナがぐっと拳を握って見せる。
キラキラとした彼女とは対照的に、
「そう、ですか…。」
アリサは歯切れ悪く返した。
「あと少し!皆、張り切っていこう〜!」
腕を上げたナナがヴァジュラへと向かう。
視線の先の戦いは、もう終わりそうだった。




「よ〜し!お疲れ様〜。」
「終了だ。今日は早かったな。」
ヴァジュラの死骸を前に、それぞれが一息をつく。
「お、お疲れ様でした…。」
アリサもおずおずとブラッドに歩み寄る。
その様子に気付いたナナがイーギスの腕を引っ張った。
「ほらイーギス!アリサさんが驚いてるでしょ〜?」
「あ…?あぁ、お疲れ様です。」
引っ張られたイーギスはいつもより低い声で返した。
しかし、視線は噛み合わない。
アリサの視線から逃れるように、ヴァジュラに神機を喰らいつかせた。
「……え、えと…。」
「ごめんなさい。もう戻ると思…」
「…あ。」
ナナが苦笑いをした矢先、ふとイーギスが顔を上げた。
「どうした?」
ギルバートが振り返れば、イーギスの顔にはいつも通り、笑顔が浮かんでいる。
「キタ!きましたよ先輩!」
「何がだ?」
「遂に爪出ました!やった…!」
「良かったな。」
拳を握り、かみしめるようにガッツポーズをするイーギス。
呆れたように返すギルバート。
見たことのある光景だ。
「ほら、いつも通り。」
そこから一歩離れて、こっそりとナナが笑いかける。
反対に、アリサはまだ眉をひそめたままだ。
「……彼は、何かあったんですか?」
嬉しそうにしている彼を見つめる。
「さぁ?でも一回聞いてみたら、アラガミ見てるとテンション下がっちゃうからだって言ってましたよ?」
首を傾げる。
同じブラッドの隊員であるナナは、この変化にもう慣れているのだろう。
「テンション…ですか?」
「はい。」
すっきりと頷く。
対して、アリサは晴れないままだった。
……それにしては…
ちらりと彼を伺えば、
「じゃ、帰りますか!」
イーギスはまた嬉しそうに笑っていた。





――――――


あとがき

定期的に戦闘モノを書きたくなります。
最後までどの素材にしようか悩みました。

こんな書き方していますが、主人公は二重人格というわけではありません。
分かりづらいですね…。




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