秀句




ふわふわと、意識が彷徨う。
身体が暖かい。
身動ぎすれば、肌に伝わる弾力。
「…起きたか」
聞き慣れた声にようやく視界が開く。
思った通りの人物がそこに居た。
瞬きを繰り返し、情報を脳に届ける。
見慣れたスーツ姿だ。
ここは、どこだったか。
「……たい、ちょう?おはようござい…っ!?」
思い出した。
「…何をしている」
「な、なんでも…ナイデス……」
反射的に布団に潜ってしまった。
布団に潜ってさらに気付いた。
肌に直接触れる感触。
一糸も纏っていない。
正直、前後不覚だ。
しかし身体に不快感はない。
この状況から導き出せるのは。
「そうか」
毛布越しに声が聞こえる。
皮肉にも、いつも通りの声色である。
沈黙が落ちる。
暗闇の中で、鼻孔をくすぐるのは彼の匂いだ。
「…熱くないのか」
「……息苦しいです」
「ならば出ろ」
ぼそぼそと返したつもりだったが、しっかりと捉えていたらしい。
返ってきた言葉に、もぞもぞと身体を動かす。
腰が重い。
そっと外を覗き込む。
新鮮な空気に息をついた。
涼しい顔で書類を見ているジャック。
「…ジャックさん」
「なんだ」
書類から視線を逸らさない様子に、少しの安堵を覚える。
「俺…、なんか変な事言ってませんでしたか…?」
「変な事?」
「あ、いや!ないならいいんです!」
突然かち合った視線を慌てて逸らす。
持っていた書類を置く音が聞こえる。
「いつも歯に衣を着せているようには思えないが?」
声色で分かる。
絶対、笑っている。
「…それ、どういう…意味です、か…」
視線を感じる。
穴があったら入りたいとはこういう感情を言うのだろうか。
「言葉通りの意味だ」
言語で転がされている。
茹で上がった思考回路で、掛詞の効いた返事など返せる訳もなく。
「そんなに知りたいなら、録音してあるが」
「えっ!?嘘!?」
思わず起き上がってしまった。
それと同時に腰に響いた鈍痛。
しかし、今はそれに構っていられない。
「嘘だが」
「嘘なんですか!?ちょっ、ちょっと!」
またも意想外の言葉に翻弄される。
やり場のない手が宙に浮く。
ただでさえ、すでにこちらは平静を失っているというのに。
「嘘ではない方が良かったか?」
「揶揄わないでください!」
意地の悪い笑みが近づく。
熱が顔に集まる。
また布団に潜る前に、捕まった。




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