the past, the present,



「……何をしている」
目の前の光景に、思わず声を掛けた。
「え、サンドイッチです。隊長も食べます?」
不思議そうな顔をして返す部下。
戦闘成績はいいが、階級が低い理由に合点がいった。
ヤドリギに着いて小休止を始めたら、突然広げだしたサンドイッチ。
吸血鬼であれば本来食事は必要ないのだが、人としての営みを忘れないよう食す者も多い。
しかし、あくまで娯楽である。
戦場の真っ只中で広げるのは流石に考えられなかった。
「精神も休めるために考えた方法がこれでした」
顔を緩めつつ、サンドイッチを頬張る。
確かに精神も休めておけとは言ったが、方法が逸脱している。
そもそも基本的にコイツは自由過ぎる。
ふらふらと歩き回っては資材を見つけ、笑って逐一報告してくるし、落下しそうになっては新たな道を見つける。
寄り道が功を制し、尚且つすぐに戻ってくるため強く咎める必要性も見当たらず、現在まで不問としているわけだが。
そして今のこの状況も、作戦に支障が出るほどではない。
「どうぞどうぞ、遠慮なくどうぞ」
「必要ない」
ただ、笑顔で勧めてくるコイツに一抹の不安は覚えるが。
「確かに、必要はありませんけど」
ふと、視線を落として言う。
一呼吸置いた先には、また笑った顔が見えた。
「美味しいって、楽しいじゃないですか」




「あ、ジャックさんヤドリギありましたよ」
ヤドリギを見つけ、指を指すキアード。
「…よし、小休止とするか」
キアードは返事をしつつ、血を一滴垂らす。
灯りが広がり、空気が舞った。
血涙の萌芽が、命を吹き返す。
「よいしょ」
「もう老体か?」
掛け声と共に地面に座ったところに、揶揄うように告げる。
キアードは苦笑した。
「違いますよ。あ、でも俺何才だったんだろ」
視線を上げ、少ない記憶を辿る。
案の定、繋がるような道はなかった。
けれども無くとも支障はないのだ。
「ジャックさんは吸血鬼としては何歳ですか」
「数えていない」
たわいもない会話を続ける。
吸血鬼は不死の存在だ。
死ぬ事も無ければ、老いる事もない。
悠久の時の中、いつしか歳を数えることすらしなくなったのか。
「まぁ、そうですよね。そもそも必要がありませんから」
「……必要性、か」
視線を逸らすジャック。
髪で隠れて、表情はうかがえない。
声色に何か違う物を感じる。
それが何かは、分からないが。
「…クイーン討伐から結構経ちますし、ジャックさんこそ御老体でしょう?」
「…その理論でいけば、お前も同様だと思うがな?」
会話の中で、彼から時々こんな雰囲気を感じる。
気のせいかもしれない、ほんの少しの違和感。
悲しそうにも思えるそれは、すぐに消えてしまうけれど。
再びこちらを向いた彼は意地の悪い笑みを浮かべていた。
「あれ、墓穴掘りましたね俺」
また、言葉を交わした。



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