name



「…知りたいか」
ふと、提示された道。
ジャックとたわいもない話をしていた時である。
その流れの中で、話題は名前に行き着いた。
自身の名すら失っていた自分に、唐突な行き先だった。
ジャックは探る様子もなくただ冷静にこちらを見つめていた。
「え…?あぁ、そうか。そうでしたね」
彼とは討伐戦時代からの知り合いだ。
その時はまだ自身に対する記憶もあったのであろう。
そこで名ぐらい耳にしていても、何ら可笑しくはない。
討伐戦の頃の記憶も、ほんの一部しか思い出せてはいないが。
「…俺は、変わりありませんか」
“自分という存在を繋ぎ止めるのは記憶”と肋骸の伴侶であるレダは言っていた。
今いる自分と、昔の自分。
自分を形成するものが今まで培ってきた経験からだとするのならば、果たして、今と昔は同じだと言えるのだろうか。
「……お前はお前だ」
その不安を見透かしたのか、していないのか。
ジャックは視線を緩めている。
どちらの軌跡を選んだとしても、それを歩くのは自分だと、それを受け止めるのは俺の役目だと伝えるような。
「その回答…、狡いです…」
思わず顔を伏せる。
いつまで経ってもこの人には敵わない。
何故だろう。
経験の差があるのは否めないが。
経験、知識、観察力、武力…。
それにしても、差が開きすぎではないだろうか。
少し前まで悩んでいた思考すらも打ち消されて。
いいや、打ち消せる程度のものなのだから、始めから自分にとって然程問題ではないのだ。
顔を上げる。
「…いいんです。なくたって。いや、この言い方は違いますね」
視線を合わせて、堂々と笑う。
「もう沢山持ってます、かな」




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