耐え忍んだ日



「っ…、はぁ…」
虫の声もしない、沈黙が落ちる夜。
ひっそりと、布が擦れる声が聞こえる。
この音は、あいつからか。
「……トオガ」
薄い布の上から声をかければ、仰々しく揺れた。
そこからゆっくりと顔を出すトオガ。
眉を下げ、声を潜め、申し訳なさそうに告げた。
「…ごめん。起こしちゃった…?」
「ばか、そんなの構わねぇよ。それよりどうした?また酷くされたか…?」
起きているのは二人だけ。
すぐ近くでジークもキースも、子供達も寝息を立てている。
「…うん。……ちょっと。でも大丈夫、すぐ治るから」
笑顔を作るトオガに、言葉に詰まる。
今日、やたらと帰りが遅かった。
「適合率高いの、知ってるでしょ?」
いつから、知らない部分が増えたのだろう。
ずっとこの背に隠して来たと、思っていたのに。
いつのまにか彼の背にも背負うものを感じる。
そんなもの、預けてくれればいいのに。
「痛いのは、今だけ」
俺が守ってやらなきゃと、そう思っていたのに。
「…医療キット、あるぞ」
「いい、勿体無い。もっとひどい怪我の時に使おう」
そっと首を振るトオガ。
視線を逸らしたユウゴの眼前に、人差し指を振った。
「物資は貴重なんだから見極めろ、だよね?」
聞いたことのあるフレーズで、悪戯っぽく笑うトオガに視線を誘導される。
「ほら、もう寝よう。明日も早いから」
言いながらユウゴの後ろに回り、ベッドへと背を押す。
振り返った時にはもう、布にくるまろうとするトオガがいて。
滞った重みに、そっと拳を握った。




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